北海道美術ネット別館

アート、写真、書など展覧会の情報や紹介、批評、日記etc。毎日更新しています

■山川草木 美は自然に宿る(7月11日~9月6日、札幌) 2020年短い夏休み(16)

2020年08月31日 07時59分53秒 | 展覧会の紹介-複数ジャンル
(承前)

 展覧会の見方は自由です。
 キュレーターの意図は尊重したいところですが
「それはそれとして、この作品が見たかったので来ました」
という姿勢でも別に罰則があるわけではないし、鑑賞者各自が自分の見方で会場を訪れ、作品に接すれば良いのだと筆者は思います。
 同時に、これまで気づかなかったり知られていなかったりする見方を提示してくれるキュレーターの手腕と知性には素直に感服します。

 とはいえ、下記の文章を、道立近代美術館のサイトで読んだとき、筆者は一抹のさびしさを禁じ得ませんでした。

(前略)とりわけ私たち日本人は、自然を畏れ、信仰の対象として崇拝することにとどまらず、自然に備わっているかたちや、あらゆる現象といったもののなかに風情を感じ、美しさを見いだしてきました。自然を支配しようとするのではなく、共存していくものとして、よく観察し、親和性を育んできた豊かな日本人の感性は、美術の世界にも反映されて、多くの優品が生みだされてきました。

本展では、山川草木といった自然を描いた作品を通して、過去から現在、そして未来にわたり自然と人との関わりを探ります。自然がいかに美術の世界、ひいてはわたしたちの生活にいかに大きな影響を与えているか、あらためて実感できる機会となるでしょう。


 「日本」を「西洋」や「欧米」と比較してその特殊性を論じるやり方は明治以来広く行われてきました。
 しかし、その思考法が21世紀に入っても有効なのかどうか、みじんも反省がない文章に出合うと、いささかガッカリします。
 東アジアや東南アジアの人たちと比べて、日本人の感性はそれほど特殊なのでしょうか。
 そのことについて議論する文章ではないので深入りは避けますが、日本を「非西洋の代表選手」として扱うことの是非について考慮した形跡がないことには、疑問を抱かざるを得ません。日本の「国際化」が「西洋化」とイコールであった時代は、とうに過ぎ去ったはずです。

 そして「私たち日本人」という表現。
 だれですか。私たちとは。
 道立近代美術館は日本人しか雇用しないのでしょうか。見る人は日本人しか想定していないのでしょうか。美術館がそんな閉じた姿勢でいいのでしょうか。
 「私たち」とは、誰に向けて言っているのでしょうか。

 この会場で「札幌国際芸術祭」を開こうとしていたんですよね。

 これなら、文飾を施さずに
「風景や花、植物を描いた絵と彫刻を集めてみました」
と書いてくれた方がまだ良かったような気がします。

 なぜ、自分がこのテキストにイラっときたか。
 それは、ここに書かれていることが、日本と西洋をめぐる通俗的な思考図式そのものだからと思います。
 展覧会というのは、見る人に新しい視点を提示し、新しい問題意識を投げかけるものであってほしいのです。

 蛇足ですが、日本人がいかに自然を「征服」し改変してきたかは、たとえば柴田敏雄の作品を見ればわかります。

 以下、個々の作品について少しふれておきます。

 冒頭画像は、砂澤ビッキ「風」。

 ちなみに、会場で配布されているテキストには「私たち日本人」などという不用意な表現はみられません。
 この一角は、岩橋英遠がブロッケン現象をとらえた連作もあり、大いなる自然の神秘を感じ取ることができるかもしれません。

 2枚目の画像は、山口蓬春「帰漁」(左)と「暖冬」。

 「暖冬」は金地の屛風に描かれた豪華な作品。
 道立近代美術館が初めて編んだ所蔵品目録の表紙に採用された日本画です。このことから推して、当時は、所蔵品を代表する作品の一つとして認識されていたのではないでしょうか。
 現在、岩橋英遠や片岡球子らを押しのけて、山口蓬春の絵がそのような場面に使われることは考えにくいでしょう。

 戦前期に「新日本画」としてもてはやされたといわれる山口蓬春の絵が、なぜいま、評価の面で岩橋や片岡の後塵を拝しているのか。いま見ると、「新しい日本画」に見えないのはなぜか。
 いろいろな考察ができそうです。


 出品作は次の通り。
山内弥一郎 「農夫」「ツバメ」
結城素明  「梅渓」
蠣崎波響  「松瀑雄鷹図」
横山大観  「秋思」
鍋島静観  「曳舟の図」
筆谷等観  「登山の図」
小坂芝田  「万竿幽趣」
山口蓬春  「暖冬」「帰漁」
山村耕花  「秋色」
松林桂月  「新緑」

羽生輝   「北の岬(知床)」
後藤純男  「冬の層雲峡」
福井爽人  「北の岬」

林竹治郎  「積丹風景」
有島武郎  「やちだもの木立」
木田金次郎 「夏日風景」
中村善策  「札幌夏日」
田辺三重松 「雪の狩勝峠」
小山昇   「摩周湖」
能勢眞美  「緑庭」

砂澤ビッキ 「風」
岩橋英遠  「虹輪(南〓を翔る)」「虹輪(来迎)」「虹輪(極圏を飛ぶ)」「風雪の名瀑(風)」「風雪の名瀑(雪)」 ※〓はさんずいに「冥」
片岡球子  「山(富士山)」


2020年7月11日(土)~9月6日(日)午前9時半~午後5時(入場30分前)
道立近代美術館(札幌市中央区北1西17)



・中央バス、ジェイアール北海道バス「道立近代美術館前」で降車、すぐ(小樽、手稲方面行きは、都市間高速バスを含め全便が停車します)

・地下鉄東西線「西18丁目」4番出口から400メートル、徒歩6分

・市電「西15丁目」から700メートル、徒歩10分

・ジェイアール北海道バス「桑11 桑園円山線」(JR桑園駅―円山公園駅―啓明ターミナル)で「大通西15丁目」降車、約400メートル、徒歩5分
・ジェイアール北海道バス「54 北5条線」(JR札幌駅―西28丁目駅)「58 北5条線」(JR札幌駅―琴似営業所)で「北5条西17丁目」降車、約540メートル、徒歩7分
・ジェイアール北海道バス「50 啓明線」「51 啓明線」「53 啓明線」(JR札幌駅―啓明ターミナル)で「南3条西16丁目」降車、約830メートル、徒歩11分



最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。