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■野村裕之 個展 ―浄化― (2014年9月17~22日、札幌)

2014年09月21日 09時37分33秒 | 展覧会の紹介-彫刻、立体
 野村裕之さんは空知管内長沼町在住の彫刻家。主な素材は石である。

 これまでも、造形に意を用いながらも、何かしらの意図をこめた作品を制作してきたという印象があるが、今回はいよいよメッセージをストレートに訴えている。

 メッセージというと、日本、とりわけ北海道では、プロパガンダではないか、として忌避する傾向が強いように感じる。
 しかし筆者は、いつも口癖のように、日本にはハンス・ハーケ(のような芸術家)がもっと存在して良い―とつねづね言っていることもあり、今回の野村さんの訴えには、大いに共感した。

 会場の中央に、家のかたちをした石彫が8点並んでいる。
 このフォルムは、小品では以前から制作していたものだ。
 題は「つぎはぎ家族」。
 家族、なのだ。家屋、ではない。
 この題がつくことで、家族がいろいろなかたちでばらばらになっている現代社会のありようを批判する作品になったと感じられる。

 しかし、つぎはぎでも、解体してしまっているわけではないので、そこは肯定的に受け止めたほうがいいのかもしれない。
 プラスとマイナスの存在感を持った作品群だ。



 今回の個展は、めずらしく木を用いたものも多かった。
 脇坂淳さんとのユニット活動を通して触発されたのかもしれない。

 木の作品で、最も大きな、インスタレーションといっても良さそうなのが、2階展示室の旧押し入れ部分に並んでいたこの作品。
「Gaza の子どもたち -再生― Chirdren on Gaza -ReBirth-」

 木片が136枚並び、その上に緑色の樹脂のようなものがかぶせてある。

 イスラエルが、パレスチナ自治区のガザ地区に侵攻して、民間人を大量に殺戮し、住宅やインフラ設備を破壊していったことは、記憶に新しい。
 イスラエルとパレスチナの軍事的対立は今に始まったことではないが、その「圧倒的な非対称性」とイスラエル軍の非道ぶりに、あらためて世界が衝撃を受けた。

 野村さんの作品を見ていると、並ぶ木片が、棺のように見えてくる。

 棺と緑という組み合わせは、2004年のオノ・ヨーコ展(東京都現代美術館)を思い出させる。

 理不尽な暴力に散った罪のないパレスチナの子どもたちへの鎮魂と、再生への祈願の気持ちが、ここには込められているのだ。


 このほか、壁掛け型の「浄化」シリーズが何点かあり、平和や反原発の思いをストレートにあらわしている。



 芳名帳の代わりに、こんなテキストが置いてあった。

浄化
 -purification-


世の中汚くなっている
彼らは段々、露骨になっている
人の心を持たないものに
バカにされているように感じる

しかしそんな時も
植物や微生物は
少しずつ、時間を掛けて
もとに戻していってくれる
無害にしていってくれる

自然は止まることをしない
私も自然の一部


 なお、1階の、右手のたたみ部屋にも、石の小品を中心に展示してあるので、お見逃しなく。
  

 今回、野村さんが会場におられなかったので、感じたところを自由に書いた。
 若手が多く、50代の彫刻家が個展を開くことのあまりない会場に、あえて乗り込んでメッセージを放っていった野村さんの心意気を、みなさんも感じ取りに行ってください。


2014年9月17日(水)~22日(月)午後1時~11時
ギャラリー犬養(豊平区豊平3の1)


 関係記事へのリンク
木 脇坂淳/陶 前田育子/画 別府肇/石 野村裕之/布 田村陽子(2013)
-の わ- 野村裕之・脇坂淳ユニット「エアーズ ウッド」 ハルカヤマ藝術要塞 (2011)

野村裕之 チビアートの世界展(2008)
ひろがるかたち(06年の4人展)
野村裕之彫刻展 なぞなぞ(03年)
野村裕之小彫刻展 ひそやか(02年、画像なし)



・地下鉄東西線菊水駅から約560メートル、徒歩7分
・中央バス「豊平橋」から約200メートル、徒歩3分
・地下鉄東豊線「学園前」駅から約930メートル、徒歩12分


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