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中野五一「前田正名翁像」 釧路の野外彫刻(45)

2021年07月12日 18時10分24秒 | 街角と道端のアート
(承前)
 「2021年6月24日は2カ所」シリーズの6回目にして最後です。

 「釧路の野外彫刻(44)」の続きでもあります。


 前田正名(1850~1921)についてネット検索すると、「コトバンク」には各種辞典の引用がたくさん出てきます。
 それらはいずれも、明治初期のフランス留学や、帰国後に農商務省の幹部として産業振興に活躍したことが記述の中心をなしています。
 しかし、阿寒湖畔に設立した前田一歩園について触れている辞典はないようです。

 阿寒湖周辺は原生林に覆われていますが、それは国有林ではありません。
 前田正名が払い下げを受け、子孫がつくった財団が所有している民有林なのです。
 阿寒の大自然は、前田家が、やみくもな開発をせずに代々守ってきたために、今日に引き継がれているのです。


 筆者は列車やバスに乗ると、たいていは車窓を見ていますが、この日たまたま往路で、阿寒湖温泉街の緑地の中に胸像らしきものがあるのを長距離バス「釧北号」の中から見つけました。

 この緑地は、釧北号が休憩で停車する阿寒湖バスターミナルのすぐ向かいにあります。
 お手洗いに行かずに、道路を渡って歩いていけば、休憩中に見ることができると考え、帰路にさっそく急いで見に行きました。

 4枚目の画像から分かるように、背後のサインから、この銅像が小樽育ちの帝展系彫刻家として道内にも作品の多い中野五一(1897~1978)の作であることは明らかです。
 いやあ、こんなところで中野五一の作品に出合うとは。

 この彫刻は、当ブログでも再三参考にさせてもらっている冊子『北海道の野外彫刻』(札幌彫刻美術館編)には登場しません。
 ただ、観光名所としては認知されているらしく、ネット検索ではたくさん出てきます。同ターミナル内の地図にも載っていました。
 彫刻関連のサイトでは、「かけらを集める(仮)。」で紹介されており、さすがとしか言いようがありません。





 各種産業団体を組織して商権を確立 直接貿易により国
 力の充実をと明治の年より幾多の艱難にも屈せず全国を
 遊説せし 男爵前田正名翁は釧路では製紙事業の先鞭を
 つけ 阿寒湖畔では一歩園を創設して現在の阿寒国立公
 園地帯は国家が率先して保護すべきものなりと官民を啓
 発し 今日に至らしむる原動力となる
  今縁りの地に翁の胸像を建立し 我が国経済産業界の
 先覚者 阿寒開発の始祖としてその偉功と労苦に対し感
 謝の至情を捧ぐ
     前田五二翁の詠める
   後の世の春を頼みて植ゑおきし
       人のこころのさくらをぞ見る
  昭和三十六年(一九六一年)
       前田正名翁胸像建立期成会

 

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