以前も書いたかもしれませんが、学生美術全道展は、かなりおもしろい展覧会だと思います。
300点余りの展示点数の大半は高校生の手になるもの。技術的には未熟な作品が多いですが、青春のエネルギーに満ちた、共感を呼ぶ絵や版画、工芸、彫刻がならんでいます。もちろん、おとな顔負けの技術の絵もあります。
確かめたことはないのですが、これほど多くの高校生が100号大の絵を描いている都府県はほかにあまりないらしいのです。正直なところ、日程が短くて、不特定多数が見に来ることをあまり想定していないような感じもありますが、ひとりでも多くの人に見てほしいと思います。
審査は全道展の会員が行っています。一般の団体展の会員による審査というのも、全国的に見て珍しいことだそうです。
ただ、全体的な傾向として、全道展会員のみなさんは、高校生らしい泥臭い描写の絵を高く評価するようです。今年の最高賞(第50回展記念賞・北海道美術館協力会賞)にかがやいた向井かおりさん(岩内高2年)「I鉄工にて、鉄光」も、地味ながらじっくりとモティーフに向き合った絵で、鉄工場の中の旋盤などがリアルに描写されています。
もちろん、こういう絵が悪いのではないのですが、こういう風潮なので、高い評価を得るのが岩内高や北海高に集中してしまいます。
一方で、センスの光る絵、高校生離れした感覚の作品は、なかなか最高賞になりません。昨年も、おといねっぷ美術工芸高校の生徒さんで、テレビゲームかマンガにインスパイアされたようなダイナミックな構図の絵がありましたが、上位の賞に選ばれなかったので、意外に思ったものです。
ことしのセンスいいで賞を、筆者がえらぶとしたら、これです。
北海道新聞社賞を受けた初馬玖季さん(札幌大谷高2年)「ヒポコンデリーの憂鬱」です。
人物の背中と抽象的な色班の絶妙の組み合わせ、ジンジャーエールの瓶などの挿入のうまさ、したたり落ちる絵の具などなど、激しくて落ち着いていて、ポップで
リズミカルな、おもしろい絵だとおもいます。
あまりにすてきなので、無断で写真を撮ってしまいました。ごめんなさい。
ちなみに、初馬さんは陶芸でも入選しています。
ほか、気になった作品から。
小笠原あかね(札幌啓成高3年)「Dreamy」
電車の中が水族館の水槽になったみたいな、楽しくてシュールな大作。
片石満里奈(札幌大谷高3年)「ばんさん」
花の電灯のもとで、アリ3匹が食卓(丸テーブル)につくという、これまたシュールな光景。手前の席があいているのも、なんとも暗示的。
岩瀬智子(おといねっぷ美術工芸高校3年)「NO! Reproduce!」
頭部がテレビ(ちょっと古い型)になっている人物が登場する戯画的な作品。
洞口友香(同)「葉っぱのかけら」
高校生離れした技術水準の抽象画。色のぼかし、配置、下地の作り方など、どれをとってもうますぎる。大学生でもここまで描ける人は少ないかもしれない。たぶん、うますぎるのと、ぱっと見で既成の抽象画とあまり変わらないというのが、奨励賞どまりになってしまった理由だと思う。
向平藍(同)「キリンの優越」
工場群をバックに、ならぶ少女と、まぼろしのキリン。非常によく描けている。なので、たとえばキリンを煙突の後ろに置いたらどうなっただろうか、とか、いろいろ考えてしまう。
石田彩夏(札幌厚別高3年)「海の景色」
数少ない彫刻での入賞。白い球体の中にこめられた夏の思い出。
小松由梨香(札幌西高1年)「未熱」
校舎の前で、はだしで歩き出そうとする黄色いスカート姿の少女を描く。未熟ながら、強い意志がつたわってくる。
稲岡千尋(札幌西高2年)「甘くて、苦い」
巨大な赤ピーマンを抱きしめる少女。手前にはシマウマ2頭。描写力はあるので、もうちょい整理すればおもしろい絵になるはず。
大河七瀬(札幌厚別高2年)「歪み」
窓際のいすにすわり、大きな虫を抱く少女の図。あまりクリアに描けていないが、ぶきみなイメージである。
林麻衣(札幌平岸高2年)「かみさま/September」
無人の教室。マティエールにさりげない工夫。
高橋智乃(札幌平岸高3年)「少年の見る夢」
雲の上に載る少年と、背景の風景を、ちがう描法で描いているのがうまい。
村田愛莉(北海高3年)「-3≦c<0(c=A.Campbell)」
北海高校らしい大胆な筆致だが、人間の首とミシンが同じ台の上に乗っかっているというのはびっくりだ。
大川ちひろ(北海高2年)「ライカ」
カメラには関係ない。ひざを抱える女性は天使のようなのだが、羽が滴り落ちる白の絵の具で描かれているのがめずらしい。
石田晴香(札幌大谷高2年)「幸せを壊す雨」
白い浴槽みたいな空間に身をかがめて入ろうとする緑色の宇宙人のような生き物が青い物体を引きずりあげようとしている。底面は血の色に染まっている。SF映画の1シーンのような奇妙な光景。
村田佑樹(小樽潮陵高2年)「旧余市水産会館」
渋い風景画。古い建物をじっくり描く。
版画は札幌平岸高の出品が圧倒的に多いのだが、全道美術協会賞を得たのは、北海高校の佐藤誠さんであった。
彫刻は入選7人全員が札幌大谷高校生。
芳賀華純「ギ」(2年)
木片(角材)をつなぎあわせて彫刻にしてしまった。
中村朱音「ゆめ ケージニア」(3年)
巨大な白い水盤のような立体。つくりはまだまだだが、ユートピアを希求する作者の心が感じられるのだ。
2008年10月4日(土)-8日(水)10:00-17:00(最終日-16:30) 月曜休み
札幌市民ギャラリー(中央区南2東6)
300点余りの展示点数の大半は高校生の手になるもの。技術的には未熟な作品が多いですが、青春のエネルギーに満ちた、共感を呼ぶ絵や版画、工芸、彫刻がならんでいます。もちろん、おとな顔負けの技術の絵もあります。
確かめたことはないのですが、これほど多くの高校生が100号大の絵を描いている都府県はほかにあまりないらしいのです。正直なところ、日程が短くて、不特定多数が見に来ることをあまり想定していないような感じもありますが、ひとりでも多くの人に見てほしいと思います。
審査は全道展の会員が行っています。一般の団体展の会員による審査というのも、全国的に見て珍しいことだそうです。
ただ、全体的な傾向として、全道展会員のみなさんは、高校生らしい泥臭い描写の絵を高く評価するようです。今年の最高賞(第50回展記念賞・北海道美術館協力会賞)にかがやいた向井かおりさん(岩内高2年)「I鉄工にて、鉄光」も、地味ながらじっくりとモティーフに向き合った絵で、鉄工場の中の旋盤などがリアルに描写されています。
もちろん、こういう絵が悪いのではないのですが、こういう風潮なので、高い評価を得るのが岩内高や北海高に集中してしまいます。
一方で、センスの光る絵、高校生離れした感覚の作品は、なかなか最高賞になりません。昨年も、おといねっぷ美術工芸高校の生徒さんで、テレビゲームかマンガにインスパイアされたようなダイナミックな構図の絵がありましたが、上位の賞に選ばれなかったので、意外に思ったものです。
ことしのセンスいいで賞を、筆者がえらぶとしたら、これです。
北海道新聞社賞を受けた初馬玖季さん(札幌大谷高2年)「ヒポコンデリーの憂鬱」です。
人物の背中と抽象的な色班の絶妙の組み合わせ、ジンジャーエールの瓶などの挿入のうまさ、したたり落ちる絵の具などなど、激しくて落ち着いていて、ポップで
リズミカルな、おもしろい絵だとおもいます。
あまりにすてきなので、無断で写真を撮ってしまいました。ごめんなさい。
ちなみに、初馬さんは陶芸でも入選しています。
ほか、気になった作品から。
小笠原あかね(札幌啓成高3年)「Dreamy」
電車の中が水族館の水槽になったみたいな、楽しくてシュールな大作。
片石満里奈(札幌大谷高3年)「ばんさん」
花の電灯のもとで、アリ3匹が食卓(丸テーブル)につくという、これまたシュールな光景。手前の席があいているのも、なんとも暗示的。
岩瀬智子(おといねっぷ美術工芸高校3年)「NO! Reproduce!」
頭部がテレビ(ちょっと古い型)になっている人物が登場する戯画的な作品。
洞口友香(同)「葉っぱのかけら」
高校生離れした技術水準の抽象画。色のぼかし、配置、下地の作り方など、どれをとってもうますぎる。大学生でもここまで描ける人は少ないかもしれない。たぶん、うますぎるのと、ぱっと見で既成の抽象画とあまり変わらないというのが、奨励賞どまりになってしまった理由だと思う。
向平藍(同)「キリンの優越」
工場群をバックに、ならぶ少女と、まぼろしのキリン。非常によく描けている。なので、たとえばキリンを煙突の後ろに置いたらどうなっただろうか、とか、いろいろ考えてしまう。
石田彩夏(札幌厚別高3年)「海の景色」
数少ない彫刻での入賞。白い球体の中にこめられた夏の思い出。
小松由梨香(札幌西高1年)「未熱」
校舎の前で、はだしで歩き出そうとする黄色いスカート姿の少女を描く。未熟ながら、強い意志がつたわってくる。
稲岡千尋(札幌西高2年)「甘くて、苦い」
巨大な赤ピーマンを抱きしめる少女。手前にはシマウマ2頭。描写力はあるので、もうちょい整理すればおもしろい絵になるはず。
大河七瀬(札幌厚別高2年)「歪み」
窓際のいすにすわり、大きな虫を抱く少女の図。あまりクリアに描けていないが、ぶきみなイメージである。
林麻衣(札幌平岸高2年)「かみさま/September」
無人の教室。マティエールにさりげない工夫。
高橋智乃(札幌平岸高3年)「少年の見る夢」
雲の上に載る少年と、背景の風景を、ちがう描法で描いているのがうまい。
村田愛莉(北海高3年)「-3≦c<0(c=A.Campbell)」
北海高校らしい大胆な筆致だが、人間の首とミシンが同じ台の上に乗っかっているというのはびっくりだ。
大川ちひろ(北海高2年)「ライカ」
カメラには関係ない。ひざを抱える女性は天使のようなのだが、羽が滴り落ちる白の絵の具で描かれているのがめずらしい。
石田晴香(札幌大谷高2年)「幸せを壊す雨」
白い浴槽みたいな空間に身をかがめて入ろうとする緑色の宇宙人のような生き物が青い物体を引きずりあげようとしている。底面は血の色に染まっている。SF映画の1シーンのような奇妙な光景。
村田佑樹(小樽潮陵高2年)「旧余市水産会館」
渋い風景画。古い建物をじっくり描く。
版画は札幌平岸高の出品が圧倒的に多いのだが、全道美術協会賞を得たのは、北海高校の佐藤誠さんであった。
彫刻は入選7人全員が札幌大谷高校生。
芳賀華純「ギ」(2年)
木片(角材)をつなぎあわせて彫刻にしてしまった。
中村朱音「ゆめ ケージニア」(3年)
巨大な白い水盤のような立体。つくりはまだまだだが、ユートピアを希求する作者の心が感じられるのだ。
2008年10月4日(土)-8日(水)10:00-17:00(最終日-16:30) 月曜休み
札幌市民ギャラリー(中央区南2東6)
これからもよろしくです。
音威子府の通信環境はどうですか。
しかし、あれだけの環境はなかなかないと思うので(美術教育的に整っているという意味でも、あまりににぎやかさに乏しいという意味でも)、それをフルに活用してがんばってほしいと思います。
高校生活、ボケーっとすごしたら、もったいないっしょ。