「お気に入り」1巻作品です。
落語にとらわれた人々を描く、落語の世界のお話。
『昭和元禄 落語心中』1巻 (雲田はるこ 先生)
「落語の世界は駄目な奴にだって ちゃんと優しいんだ」 (オビ文より)
「与太郎放浪篇」と題された1巻。
出所したばかりの青年がめざした場所は、寄席。
そこで人気落語家・有楽亭八雲をまちぶせて、かけた言葉は弟子入り志願。
行き場のない「与太郎」は大先生に拾われて、落語の世界へ足を踏み入れることに・・・
と始まる本作品。
まず、与太郎の人柄が素晴らしいです。
出所してきたところから、カタギの人間ではないだろうと想像するのは容易いのですが、
彼の天真爛漫・素直で明るい性格は、出所者というマイナス面などみじんも感じさせずに、
むしろ楽しく読者を物語に引き込んでくれる魅力にあふれています。
正直、彼のキャラクターで作品の第1印象ばっちりでしたからね~。
そして、彼が弟子入りした八雲師匠。
これがまたクセのある御仁でございまして、何やら過去の因縁を引きずりつつも、
落語界では「昭和最後の大名人」なんて呼ばれるくらいの大物さん。
与太郎がその噺にホレちまうのも道理というもの。
「落語」というものにひそむ魔性、その魅力をみごとに体現したようなお方でございます。
しかし、師匠は与太郎を弟子にはしたものの、落語を教える気はないときたもので、
さらには師匠の家にいる小夏という女性の存在などなど、このあたり過去の因縁と
何か関係あるのかどうなのか、気になってますます物語にのめりこんでしまう・・・
という見事な展開でありますね~。
などなど、落語をめぐる人間模様を軸に、落語の魅力が描かれる本作品。
中でも、与太郎が語る“寄席のあったかさ”には、思わずグッときちまいましたよ。
彼のこの空っぽの無頓着な陽気さが落語の「楽」を感じさせるのと同時に、
師匠の過去の因縁をはじめ、小夏さんの立ち位置などなど、
その一筋縄でいかない部分も見せつけてくれます。
そうした落語の世界をえがく、「人情落とし噺」(オビ文より)
何と言いますか、とても不思議な魅力をもった作品です!