mukan's blog

つれづれなるままに ひぐらしPCにむかいて

奥多摩湖から歩く三頭山~御前山

2015-10-31 15:36:48 | 日記

 東京の西の端、青梅線の終点・奥多摩駅からバスに乗って40分、標高をぐいと上げると小河内ダムの堰堤にたどり着く。そこに注ぎ込む丹波川や小菅川などいくつもの沢と川の水を湛えて、巨大な湖・奥多摩湖が、東西に延びている。水源になる山は、その南北両側と西奥に拡がり伸びて、北は秩父、南は神奈川、西は山梨と接する。山域地図では「奥多摩」と一括しているが、登山口は四通八達していて、どこから登るかによって印象は異なっている。

 

 昨日は、自身の力量チェックのためにそちらへ足を延ばした。奥多摩湖の北東岸から南を見ると1500m級の山並みが急激に立ち上がり、屹立している。そこへ南西端の陣屋から登りはじめ、北東端の駐車場まで降りてくるというコース。最高標高差は1050mだが、稜線は1000mまで下って1400mまで登るというアップダウンを必要とする。8時間を超えるルート。

 

 奥多摩湖の紅葉は11月中旬。まだ早い。だが、標高500mから登りはじめ、1500m余、8時間のコースのどこが紅葉しているか、これも愉しみではあった。カラッとした気候、寒くもなく暑くもないという山歩きには願ってもない季節。これに行くと、週に3山登ることになるから、たしかに過剰ではある。それが、体力チェックにもなると考えた。

 

 5時に家を出る。高速を走ってアプローチするのだが、ラジオのニュースを聞いていて青梅ICで降りるのをうっかり通り過ぎてしまった。次の日の出ICで降りて、奥多摩へ向かう。あとで考えると、それが実は幸いした。青梅ICで降りると青梅市内をかなり走る。ところが日の出ICで降りると早朝ということもあって車の少ないところを抜け、奥多摩湖から流れ出ている多摩川の右岸道路を奥多摩駅の先まで貫けることができる。帰りに左岸沿いに青梅へ向かったが、バスは通るトラックは走る、工事中であったりして渋滞し、倍近い時間を食ってしまった。

 

 7時前に奥多摩湖東駐車場に車を置く。ひやりとするが、長袖シャツ一枚で不都合はない。手袋をして、積んできた自転車に乗って奥多摩湖の西南端の陣屋の登山口に向かう。8kmほどだから20分もあればつくだろうと思っていたのが、30分もかかってしまった。登山口に自転車を置いて歩き始める。7時35分。ムロクボ尾根はいきなりの急登。ストックを出し滑りそうな体を支えて歩一歩と持ち上げる。牛歩である。それが30分続き標高差300m上がっている。このペースだとコースタイム1時間半のところを1時間で登ってしまう勢いだ。いいじゃないか。

 

 馬の背のような稜線になったかと思うと、再び、三度、急斜面になる。ムロクボ尾根の最後の部分は、落ち葉もあって滑り落ちそうな砂地の傾斜を、岩や木につかまるようにして這い上がる。斜度は45度くらいあるのではなかろうか。その途中、さび付いた標識にマジックで「ツネ泣坂」と書いてあった。「泣かないで歩こう」と昔子どもに言ったことがあったが、ほんとうに普通名詞になるほどの坂なのだ。それを抜け出るとヌカザス尾根に合流する。国土地理院の地図では「ヌカザス山1175m」とあったが、案内表示板は「ツネ泣峠」と記してある。「←三頭山 ヌカザス山→」と表示がある。ヌカザス山はもう少し合流した尾根を下ったところのようだ。歩き始めてから1時間半。コースタイム通りだ。歩くペースと高度の関係は、やはり1時間400mほど。まあ、まずまずのペースだ。

 

 そこからは緩やかな稜線を上る。標高1200mから1400mほどの間のブナや各種のカエデ、コシアブラなどが紅葉・黄葉している。1500m近くになると紅葉は終わっていて、広葉樹の葉もすっかり落ちている。入小沢の峰という時間のチェックポイントを見過ごしてしまった。気づいたのは「入小沢の峰0.2→」という表示を見つけたとき。見晴らしは利かない。木々が林立しているからでもあるが、薄い雲が遠景を覆い、雲量8の天頂だけが青空に明るい。汗ばんでいるが、寒くはない。風もない。歩きながら(珍しいことに)お腹が空いたと思った。

 

 三頭山は西峰、中央峰、東峰の三つのピークをもつ。中央峰の手前にテーブル付きのベンチがしつらえられてある。東峰の先に展望台がつくられている。そこのベンチに座って、とん汁とパンを食べる。10時15分、ここまでもほぼコースタイム。今日初めて山で会う人が登ってくる。「三頭山の山頂はどこですか」と聞く。三頭山の南側には「都民の森」の駐車場があり、ここを通るルートがハイキングコースになっている。ここから40分の鞘口峠までは、何人もの人たちとすれ違った。この標高差400mのコース上の何カ所かに「←山岳耐久レース 東京都山岳連盟」の標示が掲出されている。一般ルートを避けて登山マラソンのコースが設けられているのであろう。私も「耐久レース」のコースを歩く。以後、この表示は私が歩くコースの先々につけられていた。

 

 鞘口峠を過ぎると、また人と出会うことはなくなった。4、50mの高低差を登ったり下ったりしながらの稜線歩きが続く。風張峠付近に、「山岳耐久レース 40km地点」と表示がある。この山中が40kmということとなると、このレースは100kmほどあるのだろうか。風張峠を過ぎてしばらく進むと舗装した2車線の道路に出くわす。檜原村の数馬から奥多摩湖に抜ける、かつての有料道路。それがこの山稜を乗っ越すところが、月夜見山の脇であった。11時50分。汗もかいていないし風もないのに、なぜか体が冷えるような気がして、ザックから軽い羽毛服を出して羽織る。ベンチでカップラーメンにお湯を注ぎ、2回目の昼食にしていると、女性の2人連れが上がってきて、向かいのベンチに腰掛ける。彼女たちもお昼にするようだ。「どちらから?」と聞く。「奥多摩湖から」というと、若い人が市販の地図を広げて「どこの登山口? どちらへ?」と、このあたりに詳しい様子。説明すると「ずいぶんロングコース、健脚なんですね」という。お返しに「あなたがたは?」と尋ねると、中年の方が「じつは目を悪くして、久しぶりなんです、山は」と応える。「でもご一緒してくれる方がいて、いいじゃないですか」と若い人をみる。「いえね、無理を言ってついてきてもらったんです」とまた中年の人。若い人はにこにこと笑っている。軽アイゼンがどうのこうのと言っているから、冬場の積雪期にも来たことがあるのだろう。結構なことだ、こうして歩けるのだから。

 

 お先にと挨拶をして、後半の3時間半に取りかかる。12時5分。ここのところで、惣岳山に2時前につけなければ御前山の往復は止めようと判断する。歩行タイムはほぼコースタイムで来ているのだが、お昼を食べる時間がよけいにかかっている。いつもなら、その時間も含めてコースタイムで歩けるのに、どうしたことだ、今日は。


                                                                                        
 いったん道路に出て駐車場を横切って、再び登山道に入る。小河内峠まではまた、小さなアップダウンの稜線歩き。稜線の突出部に差し掛かると「山岳耐久レース →」が、巻き道への経路を案内する。小河内峠を過ぎてから徐々に高度が上がり、この向こうが惣岳山と思われるところで、「山岳耐久レース 御前山 →」と、また巻き道の案内がある。ひょっとして惣岳山を経ないで御前山へ向かう巻き道ではないかと思う。山頂部へ向かう道の踏み跡は、落ち葉が降り積もって薄くなっているが、間違いなく、ある。そちらへ踏み込む。あまり歩かれていない。急斜面の登り、加えて滑りやすい。道なき道を歩くようにしてピークへ出てみると、「← 御前山 小河内峠→」の方向表示板があるだけ。なんてこった。ただの小ピークなのだ。降って再び巻き道からの登山道と合流し、急な上りを登ると惣岳山の山頂であった。2時5分。時間をオーバーしている。御前山はすぐ近くに頂をみせている。だが空一面に雲が広がり、遠望も利かない。

 

 下山にかかる。2時10分。湖までの標高差は800m余。1時間半の行程である。急な斜面を滑らないように気をつけて、石に足を掛けながら下る。落ち葉が降り積もり、その下が見えない。ふかふかしていながらときどき石を踏みつけ、捻挫しそうになる。まっすぐな長い斜面は、とっとっとと駆けるように降る。ストックがバランスを保つのに利いている。大ブナ尾根と名がついているが、ブナがあるのは上の方だけ。中断から下はスギの林。それも手入れがあまりできていないから、暗いし、下草も生えていない。枝打ちもしていないようで、細いスギがひょろひょろと可哀想だ。東京都水道局と標柱が立っている。水源涵養林なのだろうが、ならばほんとうにブナの林にしてスギを切り払わなければならない。尾根の西斜面は落葉広葉樹林ばかりで、陽ざしを少し受けて明るく、少しばかり紅葉もしている。東側がまるでダメなスギ林。ひょっとしたら所有者が違うのかもしれない。土地所有権を何とかしなければ、水源涵養だって出来まいに、と思いながら下る。

 

 1時間で標高600mを下っている。あと標高で200m、奥多摩湖が陽ざしを受けてきらきらと湖面を輝かせているのが、木々の間から見える。この最後の200mが、無茶苦茶きつかった。ツネ泣坂を思い出した。あちらは滑り易そうな砂利が多かったが、こちらは岩がごろごろと積み重なって急傾斜をなしている。「バス停 →」の標示をたどると、ほどなく小河内ダムの大堰堤に出た。車も通れる広い堰堤の上を渡って車を置いた駐車場に行く。15時40分。歩き始めてから8時間5分。結局、昼食の35分で、御前山往復が出来なかったというわけ。

 

 まず最初に、自転車で走る時間とその疲労を計算に入れていなかったこと。筋肉が弱くなり、登りの速度が思うように運ばなくなっていること、三日前の2山歩きの疲れが、やはり取れていないこと。総じて、齢相応に力が落ちていることを思い知らされた。雑誌に載っていたコースタイムがひょっとしたら標準からずれていたのかもしれないが、そのように自分をかばうよりも、力の落ちたことを自覚した方が、今後の山歩きには意味が大きいと、懸命に言い聞かせているところだ。


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