mukan's blog

つれづれなるままに ひぐらしPCにむかいて

論議の場をどうつくるか

2023-02-13 10:38:09 | 日記
 2/11のネットニュース・SmartFLASHで、《「都会風を吹かすな」の福井県池田町ーー過去には「移住してはいけない理由」を公開…同町に意図を聞いた》と流れた。
 高齢化の進む福井県池田町。「住みやすい町人気ランキング」で常に上位を占める福井県故か、コロナ禍になってリモートワークが広がった所為もあってか、移住者が多い。トラブルも増える。こんな筈じゃなかったと、移住に失敗して撤退する人もいる。たぶんそういう事情が背景にあったのであろう、池田町が広報誌に「池田暮らしの七か条」を掲載した。その表現に一部に「都会風を吹かすな」とか「(地元民が移住者を)品定めするのは自然」とあったものだから、ネットニュースでも取り上げられ、東京新聞紙上にも掲載されることとなった。広報担当者としては「してやったり」というところか。

★ 福井県池田町が公開した「池田暮らしの七か条」

第1条 集落の一員、池田町民であることを自覚してください。
第2条 参加、出役を求められる地域行事の多さとともに、都市にはなかった面倒さの多さも自覚してください。
第3条 集落は小さな共同社会であり、支え合いの多くの習慣があることを理解してください。
第4条 今までも自己価値観を押しつけないこと。また,都会暮らしを地域に押しつけないよう心がけてください。
   ・これまでの都会暮らしと違うからといって都会風を吹かさないでください。
第5条 プライバシーが無いと感じるお節介があること、また多く人々の注目と品定めが行われていることを自覚してください。
   ・どのような地域でも,共同体の中に初顔の方が入ってくれば不安に感じるものがあり「どんな人か、何をする人か、なぜ池田に」と品定めすることは自然です。
   ・干渉、お節介と思われるかもしれませんが、仲間入りへの愛情表現とご理解ください。
第6条 集落や地域でも、人間関係を積極的に楽しむ姿勢を持ってください。
第7条 時として自然は脅威となることを自覚してください。特に大雪は暮らしに多大な影響を与えることから、ご近所の助け合いを心掛けてください。
   ・池田町には「雪で争うな、春になれば恨みだけが残る」という教えがあります。積雪時、大雪時での譲り合い、助け合いを心掛けてください。
   *
 これは、BBC東京特派員・ヘイズさんの「日本人の不思議」にも通じるモンダイ。それを取り上げてきたseminarの素材としては、うってつけ。同じニュースソースによる東京新聞(02/11)の報道もあったので、まずそちらを紹介する。

【東京新聞の報道】 都会風吹かすな、…「正直すぎる」移住案内はアリ?
福井・池田町「七か条」がネットで炎上

 新型コロナ禍でも話題になることが多い地方移住を巡り、福井県池田町が1月の広報誌に載せた「池田暮らしの七か条」が波紋を広げている。「都会風を吹かさないよう」「品定めされることは自然」といった表現が批判を集めた。もともとは移住後のトラブルを避けるための親切心が出発点のようだ。正直すぎる移住案内をどう考えるべきか。(岸本拓也)


◆「雪かきや草刈りに参加してくれない」悩みから


 池田町は、福井市の南東に位置し、町の9割が森林に囲まれた県内有数の豪雪地帯だ。人口は約2300人と、この30年でほぼ半減。高齢化率は45%で、全国平均の29%を大きく上回る。過疎化を食い止めようと町は森林を生かした街づくりを掲げ、地域おこし協力隊員を積極的に受け入れたり、町営住宅の提供や就労支援に力を入れたりし、例年20人ほどが県内外から移住しているという。
 そんな中で物議を醸したのが、くだんの「七か条」だ。町によると、「移住者が雪かきや草刈りなどの共同作業に参加してくれない」などの悩みを受けて、町内に33ある集落の区長でつくる区長会が提言としてまとめた。1月中旬発行の町の広報誌に掲載し、町のサイトでも公開した。
 提言は「町の風土や人々に好感をもって移り住んでくれる方々を出迎えたい。しかし、後悔や誤解からのトラブルを防ぎたい。そのための心得」と前置きし、草刈りや雪かき、祭りといった地域行事への参加など支え合いを促す内容だ。
 ただ、その第4条で「都会暮らしを地域に押し付けないよう心掛けて」。第5条には「お節介(せっかい)があること、多くの人々の注目と品定めがなされていることを自覚して」などと記した。
 こうした表現に「排他性の極み」「上から目線」などネット上で批判が噴出。町に対して、主に県外の人から電話で寄せられたほか、町の移住者からも「あまり良い表現ではない」との声が届いているという。


◆「移住者を排除する意図は全くない」


 事務局として関わった町総務財政課の森川弘一課長は「移住してから『聞いていない』『知らない』とならないよう、集落の抱える問題点を包み隠さずに伝えた上で、受け入れたいという考えから区長会が7か条をまとめた。集落をよく分かってもらうためのツールで、移住者を排除する意図は全くない」と釈明する。
 さらに「町のきれいな景観や伝統は、昔からの濃い地域コミュニティーの中で、努力して守ってきたから続いてきた。そうやって汗を流していることも知ってもらいたかった」と訴える。移住検討者向けに、集落ごとの慣習や決まり事をまとめた冊子も作成中で、ミスマッチが起きないように説明していくという。


◆「おかしな内容ではない」


 テレワークが普及する今、自然に囲まれたより良い暮らしを求めて、地方移住を考える人は増えている。移住支援を手掛けるNPO法人ふるさと回帰支援センター(東京)には、2022年に過去最高の約5万2000件の相談があった。
 同センターの高橋公(ひろし)理事長は、池田町の提言について「表現の拙さはある」としつつも、「受け入れる側の思いとして、おかしな内容ではない。移住の向き不向きが分かるように自治体側でマイナス面を含めて正直に情報を発信することはあっても良い」と話す。
 その上で移住の心構えを説く。「単なるあこがれだけでは移住は失敗する。地域の気候やしきたりを受け入れ、自分から溶け込む努力ができるのか、しっかり事前にシミュレーションや相談を重ねることが大切だ。同時に、ゆったりと時間が流れる地方での新しいライフスタイルと不便さを楽しむつもりで、自分に合う移住先を選んでほしい」
  *
 さて、東京新聞は「正直すぎる移住案内」と、この七か条をまとめた。近頃のTV番組でも「いいいじゅー」とか、古民家を改修して移住者を募るとか、いろいろな試みが紹介されている。少子高齢化で限界集落が極まっていくことにどこの地域も関心が深い。それと同時に、移住者を受け容れると、それに伴うトラブルも生じる。昨夜もNHKだが山梨県北杜市の移住者がどのような暮らしをしているかを、地元住民との接点を抜きして上手にまとめていた。これらをみると、都会地を離れて暮らすことの快適さが強調されていて、池田町の地元住民のご苦労は思い浮かばない。池田町の「七か条」はそれを浮き彫りにした。冒頭でこれが取り上げられたことを池田町の担当者は「してやったりと思っているかもしれない」と憶測を述べたのは、池田町広報担当者を非難してではない。むしろ、こういうモンダイを俎上にあげる「論議の場」がなかったことが、これを契機に出来上がるんではないかと思った。
 池田町の「七か条」は移住者が都会風を吹かすのに困惑している。これをまとめたのは、池田町に33ある区長たちだという。つまり、暮らしに一番密着した所で住民たちが共同して行ってきたことに、新住民が協力しない。この区長会にあたるのは都会では町内会であろうか。私は団地住まいであるから団地理事会と自治会がそれに代わる組織として機能している。でも暮らしに必要なのは理事会。住居の修復保全・清掃など共同して行わねばならない生活実務を担当している。ところが、町内会となると、住居の保全は各戸が個別に行うものだから、ゴミの収集場所の整備や清掃など、ごく限られた作業を分担して行う程度になる。ところが都会地では、よく問題になる「ゴミ屋敷」とか「倒壊危険家屋」のように、持主が放置すればどう片付けて良いかわからないメイワクが出来する。
 わが思うとおりに振る舞って何が悪いという,いわば社会的行儀作法である。都会地でそれは結局行政が「強制執行」する法改正に向かっているが、地元の小さな単位では、ゴミ処理に関する町内会に加わらないという「身勝手な」住民も現れる。だが中には、高額な町内会費を集めて、年に何回か盛大な祭礼を行って親睦を深めるという町内会もある。それに賛成しない人たちは、ゴミ処理とは別にしても加わりたくない。古くからの住民と対立する。
 移住というのが、単に地方行政に世話になるだけでなく、自律的に行われている地域の共同作業に参加することだと、都会地から来る人には念を押したいと、池田町の口調たちは考えたのだろう。えっ、今でも農村共同体は生きてるのと拒否反応を示す人は、案外多い。共同体という言葉自体に戦前の農村共同体や隣組のイメージを重ねて拒絶反応を示す人は、インテリといわれる人にも多い。だから用心深い知識人は、コミュニティと言ったりアソシエーションと表現して、古いイメージを払拭している。
 これまで私たちがイメージしてきた「わたしたちの暮らし」という共通のものが、住んでいる場所によって多様化し、すっかり変容してしまっているのだ。そのばらつきが大きいから、移住者が参入することによって困惑する場面が増える。産業社会の初めの段階では、田舎から都会へという一方向の優劣に価値づけられた意識が共有されていた。そのころには、「都会風」は旧来の弊風に新しい風を吹き込むと考えられることもあった。だが今、高度諸費社会を経過して暮らし方の多様化もずいぶん広がり、且つ深まってきている。海外勤務が忌避され、キャリアを求める仕事よりもスローライフが称揚される。コロナ禍もあって、リモート仕事も可能になる。当然、子育てを含む環境を求めて移住を考える人たちも多くなる。だが、人と人の間の,感性や感覚、好みや価値意識や考え方は、ますます多様になり、その分、場をともにする人たちは、その差異をすりあわせねばならない。そうした「論議の場」を地域に設けることが必要になっていると言える。

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