mukan's blog

つれづれなるままに ひぐらしPCにむかいて

第10回 36会 aAg Seminar ご報告

2014-09-30 10:24:22 | 日記

 9月27日、第10回のSeminarが開催されました。参加者は13名。常連の2人がすでに予定が入っていて欠席でしたから、もし来ていれば、これまでで最大の参加をみたことになります。

 

 今回は、fwさんの「住宅の商品開発最前線」。彼自身が、17年前に退職をして、フリーの「ハウジングライター」になって以来取材してきた分野の、「東日本大震災後のトレンド」を中心に話してくれました。10ページに及ぶプリントは、最初の2ページに「トレンド」の概要を紹介しています。まずは、彼のフリーになってからの仕事の仕方から話し始めました。テーマの華々しさと違って、彼の静かな語り口が、諄々と沁み込んできます。

 

★ 震災後の住宅のトレンド、「スマートハウス」

 

 東日本大震災後に「価値観が大きく変わった」とみています。

 

① 万が一の時の備え、
② 節電・省エネの推進、
③ 家族の絆とか社会とのつながりの大切さを重視した商品がトレンド、

 と。その、省エネを象徴するのが「スマートハウス」と呼ばれているものです。スマートシティとかスマートマンションもあります。

 

 「セキスイハイムのスマートハウスの進化」に例をとり、2011年から2014年までの毎年、どう変わったかを一覧表にしています。

 

 2011年にPV(photovoltaics、太陽光発電システム)4.8kwを備えた住宅によって「光熱費20%削減」がウリでした。それが翌年には蓄電池を備え、しかも太陽光発電の固定買取制度が法制化されたことを受けて、「5.1万円」の収入になっています。この「収入」というのは、発電した電力の自家消費を除いて販売した分の収入額です。さらに2013年にはPV容量が2倍以上となり、「24万円」の収入に増大。さらに2014年には電気自動車の蓄電池を併用することによって蓄電容量も倍増し、「33万円」へと収入が増加している住宅、というわけ。もちろん電気自動車をもっていなければなりませんが、蓄電のネットワークを最大限活用しようとしています。「健作さんがいればそのあたりを説明してくれるでしょうが……」とfwくん。年々の「進化」には目を見張るものがあります。

 

 スマートハウスというのは、エネルギーの消費を最適に制御するシステムをもつ住宅のこと。エネルギーを、創る・蓄える・節約するばかりでなく、それを総合的に統御する「HEMS」という考え方に進んでいます。HEMS(Home Energy Management System)、家庭で作る電気エネルギーの活用状況を、家庭内に設えたパネルなどで「見える化」するシステムです。

 

★ 健康志向へ対応する住宅

 

 「将来はHEMSで蒐集したデータをさまざまな分野で使うようになる。センサーを体につけ、心拍数、呼吸数、カロリー消費量、ストレス度、などのデータをリアルタイムでサーバーに溜め、ヘルスケアサービスができるようになる」とfwくんは、解説する。そう言えば、トイレメーカーが、尿や便のチェックをして(検査サービス機関に)送信、健康状態を管理してくれるウォッシャブルトイレを売り出していましたね。高齢化が進む中、健康チェックができる住宅というのウリです。

 

 つまり、健康管理などにつなげていけるような住宅、「スマートウェルネス住宅」へと向かっていると。「医療と建築の関連性を研究する動きが活発化」し「健康・省エネ住宅を推進する国民会議」もスタートしています。「温度変化と健康の関係、血圧、睡眠の関係などの研究が活発化」しているそうだ。人々の関心と不安に応えていくことが、今後の住宅販売需要を確保していく道だと、(住宅関連会社は)戦略を立てているようです。

 

 その中間段階として「光熱費ゼロ住宅」、ZEH(Zero Energy Home)と呼ぶ、住宅の建築が検討されています。「ソーラーで創電し、料金の安い深夜電力を蓄電池に溜めて、昼間に使う」かっこうで、住宅のエネルギー消費量をプラス・マイナス・ゼロにしようというのです。実際には、家電消費エネルギーを含めたZEHと家電消費電力を除いたZEHと二通りあるそうですが、2012年統計では、前者で13%、後者では59%に上る。「ZEH」でインターネット検索をしてみると、75000件以上の項目が引っかかりました。ZEB(ゼロ・エネルギー・ビル)とも呼ばれているそうですが、2009年から何回もの研究会を開いて検討がすすめられてきています。「国は低炭素社会の実現へ向けて、2020年までに新築住宅にZEHを実現する目標を打ち出している」とfwくんは、付け加えています。

 

★ 再生可能エネルギーの買い取り制度の将来

 

 話しの途中でfwくんが「この中で自宅にソーラーを装備している方はいますか」と問いました。面白いことに、一人もいません。これは、いわゆる「環境派」がいないことを示しています。私たちが家を建てるころに、ソーラーシステムを装備することは「環境派」の関心事ではあっても、一般の興味を引くことではなかったからです。つまり、すべては、3・11以降のことであり、政府の再生可能エネルギーを振興する制度が整い始めてから、関心を引くことになった、というわけです。

 

 その関心がしかし、実際に改築や新築に活かされるかどうかは、わかりません。というよりも、古稀を過ぎて住宅を新築しようと考えている人は、(私たちの中に)そう大勢いるわけではありません。それほど期待できる話にはならないと言えます。それでもfwくんの説明に、「全量買い取り制度を選択すると収入が20年間で680万円になる」とあったときは、初期の設備費がいくらかかるか、それへの補助金がいくらあるかに、話しが集中しました。さすが高度経済成長を潜り抜けてきた世代です。パッと目端が利いて、さとい。ソーラーシステムの設備費も、かつて1kw100万円もしていたのが、今は1kwあたり30万円くらいになっています、とfwくん。


 
 しかし、思わぬ話も出ました。九州電力が「再生可能エネルギーの固定価格買取制度に伴う新規契約を9月25日から中断する」と24日に発表したこと。26日には、「東北電力も追随」と新聞も報じています。これは、その場にいたTs君の話では、「出力が不安定になるから」だそうだが、「20年間買取を義務付け」という制度自体が信頼を失うことにもなりかねない。一般家庭向けのことなのか、大口買い取り事業者への「警告」なのか、はたまた、この制度自体を見直すようにと求める電力会社から(政府へ)のメッセージなのか。調べてみなければ「住宅の新しいトレンド」も崩れてしまいかねません。

 

★ 暮らし方まで設計してくれる住宅会社

 

 このさとい世代をターゲットにしたと思われる「住宅トレンド」の話が、もう一つfwくんからありました。旭化成の「都市の実家」。「親世帯訴求商品」とfwくんは表現しています。「1940年代生まれ」というから、まさにどんぴしゃり。実際のターゲットは、1940年代後半の団塊の世代でしょう。「2・5世帯住宅」として売り出されたそうです。都市生活をする親のもとに生まれ、独立して世帯をもっている子どもたちが「都市の実家」に、盆・暮に帰ってこられるように設計するという発想。なるほど、あの手この手で(住宅販売会社は)智慧を凝らしているんですね。ついでに、介護が必要になった時にも切り替えて使えると、使い勝手のよさを強調しています。さらについでに、「畳の部屋がいいそうだ」と言ったものですから、そうだ、イグサの香りがアロマセラピーに効くと、話しは転がっていきました。

 

 fwくんが「この世代は集まるのが好きらしい」と付け加えたので、余計に、話しはにぎやかになりました。旭化成のコンセプトの中に、「集うことの愉しさを感じ、将来にわたってアクティヴに過ごすことができる、暮らし継がれる家の提案」とあります。3・11以降、家族を見直す世の中の風潮もあって、新たに住宅を求める欲求の中に、こうした項目も加えては如何、というコンセプトでしょう。すごいなあ。住宅会社というのは、人々の暮らし方まで設計してくれるようになったのですね。でも、本当にこの世代は、「集まるのが好き」なのでしょうか。何だか、身の裡をのぞき込まれているようで、感じ悪いって思いましたね。

 

★  こんなに調子に乗っていいのか、人間は。

 

 「三井不動産が描いた2020年普通の暮らし」という、fwくんの紹介してくれた話は、ちょっと調子に乗りすぎていると、私は思いました。情報通信技術(ICT)の発展は目覚ましいが、それを活用した住宅の近未来を描いてみようというのが、三井不動産のコンセプト。

 

 キッチンとリビングを別々のものと考えるのではなく、1カ所にまとめて、そこに家族の新しいコミュニケーション空間をイメージする「ツクル空間」。もちろんレシピを表示するなどは、手軽にできます。あるいは、記念日などの食卓をキオクしておいて、映像で再現もできるという「キオクスル食卓」。あるいは離れて暮らす家族や祖父母、海外の友人たちとオンライで結ぶ「ツナガル窓」とか「オトノナル扉」といった、ほとんどドラえもんのポケットのような発想の住宅もあります。技術はすでに完成しており、あとはコストだけという地点に来ているらしい。ここでも、私たちの自身の暮らし方が、徹底的に「技術依存的に」なっていると感じるのは、近代の前段階を生きてきた私たち世代の尾骶骨の記憶(ひがみ)なのでしょうか。

 

 トヨタホームの「赤ちゃん医学から生まれた家」も、滑稽に感じました。おんぶ日傘で過ごした(親の)お嬢様お坊ちゃん時代の感性をくすぐるのでしょうか、住宅の残響音にまで気を配り、五感をはぐくむ色環境を施し、赤ちゃんの睡眠リズムや生活リズムに対応して開いたり閉じたりするブランインドと、至れり尽くせり。これでは親の(気遣いの)出番がないのではと思われるほどです。それにしても、0歳から3歳までの子育てに良いと考えて住宅を求めるというのも、ゼイタクな暮らしができるようになった高度消費社会の賜物ですね。でも、それで何を喪っているかと考える方が、重要ではないのかと、ふと思い浮かべてしまいました。

 

 もちろん新築だけではなく、リフォーム用の「提案」もあります。「湯を、愉しむ。時を、味わう」というコンセプトで開発。快適、楽ちんをモットーに創意工夫をするというのは、日本企業の得意技です。だから商品開発に力を入れて、人々の欲望を掘り起こしていこうとするのは、先端開発者の使命なのでしょう。だが消費者が、それに「適応」することによって、私たち自身の暮らしばかりか、感性や思考や身体性が変わってきているのではないかという「不安」を私は感じます。私たちが「調子に乗って」新商品の便利さに気持ちをとらえられている間に、すっかり「人間」の本来持っていた動物的な勘や本能的能力を喪ってきました。それは「進化」であると同時に、「退化」でもありました。それを、高度消費社会の若者たちを生み出しているのではないかと、私は心配しています。簡単、便利、気持ち良い、……。その反面、着実に人間能力のある部分が失われて言っている、と。どこかで、ブレーキを掛ける必要があるのではないか。そんな気がしました。

 

★ 今話題の「サ高住」体験

 

 講師・fwくんの今日一番のポイントがここにありました。「適合高齢者専用賃貸住宅」への入居レポート。いわゆる「サ高住もどき」。場所は、浅草・浅草寺。屈指の観光スポットであり繁華街。年寄りが暮らすには、都会のマンションがいいという定番であり、かつ、賃貸。でも、場所が場所だけにお値段もなかなかのものです。

 

 彼の体験ルポは、何かの雑誌に掲載されたものらしく、3ページにきっちりと写真付きでまとめられています。「外食・自炊も自由」。外出も自由、帰宅するもしないも自由。身体状況に差があり、暮らし方の好みに違いが大きく、固執癖の強い(わがままで頑固な)高齢者にとって、こうした自由度の違いは、ありがたい。もちろん「介護サービス」はそなわっています。浅草の雑踏を散策する。自室の風呂で入浴し、快適に過ごす。「現在は適合高専賃として運営中だが、今後はサ高住に登録予定」と紹介しています。その違いがなんであるかはわかりませんが、私たち高齢者の「終活」場所としての「サ高住」には関心が集まりました。

 

 記事は《なかなかいいじゃないか、『サ高住宅』!》と締めくくられています。だがfwくんは「う~ん、ちょっと馴染めなかった」と正直な気持ちを話してくれました。「体操教室」や「頭の体操」でのやりとりが、いかにも「年寄り扱い」。あたかも幼児をあしらうように介助するスタッフの姿勢に、「尊厳」を損なう機微を感じとっているからだと、他の方々もfwくんに同調気分。商品としての「住宅」に、「尊厳」や「プライド」の尊重というような要素を持ち込むことができるのかどうか、わからないが、「商品開発」を突き詰めると、そこに来てしまう。その最先端に、日本の(というか、資本主義社会の)市場は到達しているのではないか。そんなことを考えさせられました。

 

★  「意思的なネットワーク」か「家族」か

 

 その勢いで、上野千鶴子の提唱していた「コレクティヴハウス」とか、若い人たちに人気の「シェアハウス」というのは、住宅業界ではどうなっているの? と質問が出されました。fwくんの説明では、需要が少ない領域のことは商品開発が進まない、と簡にして要を得たものでしたが、上野千鶴子の主唱するような「他人同士」の結びつきは不安定で長続きしない、それよりは「家族」という意見が出され、しばらくそちらのやり取りがありました。

 

 また、「2・5世帯住宅」にからんで、「大きくなっても結婚しない子ども」が話題になり、人と人との関係のモンダイと、老後の過ごし方のかたちに、みなさんの関心があるのだと感じました。いずれまた、「家族」や「終活」などに絡めて、このSeminarで取り上げたいと思います。(終わり)