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世界一周、2度の離婚、事業の失敗、大地震を乗り越え、コロナ禍でもしぶとく生き抜く『老春時代』の処世術

これが宿命なのか 二人の娘との巡り合わせ

2012年07月16日 | 家族
これがボクに課せられた宿命なのだろうか。

娘たちに悲しい思いをさせてしまうという。



自分の皮肉な運命を罵りたくなる。



             ◇


ボクには3人の子供がいる。

娘(38)、息子(27)、娘(21)の順だ。



長女と次女は生まれも育ちもまったく違う。


前妻との子と、今の妻との子。

つまり腹違い。


事実上、未だ二人に面識はない。



            ◇


状況は違うが、二人の娘に関して期しくも同じような場面を経験した。

公の席上で悲しい思いをさせてしまったのだ。



今回は、これまでブログで述べてきたように

NYにおける娘(次女)の結婚式で悲しい思いをさせてしまったが



長女には

ボクの父親(子供たちのおじいちゃん)の通夜の時冷たく当たって泣かせてしまった経緯がある。





            ◇


11年前のちょうど今頃、ボクの父が76才で他界した。

脳梗塞で倒れ、次の日にあっけなく逝ってしまった。


前日まで元気に税理士の仕事をこなしていて

いわゆるピンコロで、ある意味いい死に方だったのかもしれない。



皮肉なことに

4歳で分かれた長女が同じ年、

ボクを探して23年ぶりに会いたいと言ってきていた。


おじいちゃん、おばあちゃんたちにも。




それを、今の妻は拒否した。

「会ってはいけない」 といったのだ。


「その娘と会うなら私と離婚してから会って」 とも。


ボクは唖然とした。

「なぜだ!?」






その最中のオヤジの急死。


大阪に住むその長女に、

「おじいちゃんが亡くなった。

だが、申し訳ないが通夜には来ないでくれ」 ととりあえず伝えた。



ところが

ボクの言葉を無視して長女は通夜の席に大阪から駆けつけて現れた。

「おじいちゃんに会いたかった。せめてお葬式には」


という気持ちで来たという。


23年ぶりの再会、ボクは嬉しかった。

ずっと会えるこの日を待ち望んでいた。




妻もボクがずっと別れた娘と会いたがっていることを100も承知していた。

隠し子でもなんでもない。


逆に妻はボクと結婚する前から

その娘の存在は知っていた。




だが、なぜかその娘に会うことを拒絶した。


そして会うことを頑なに拒んでいた妻の前に

突如その娘が現れたのだ。



それがいみじくも親父の通夜の席上であった。




その場で妻は逆上した。

泣き叫んだ。


「あの娘(こ)を追い返して!」 と。

そうでなければこの席上にはいられないし、

葬式にも参列しないという。



ボクは長男だ。

この場を取り仕切らなければならない。



ボクは妻を取るか、別れた娘を取るか迷った。

この親父の通夜という席上で、この瞬間に決めなければならなかった。


席上には親戚縁者、父の死を悼む人々が集まっていた。



そこでボクは苦渋の決断を迫られたのだ。

妻を取るか、夢にまで見てやっと再会できた娘を取るか。



しかもこの状況で、このタイミングで

あまりに酷な選択だった。


そして


ボクは、


ボクは






敢えて妻を選んだ。



23年間、娘との再会を待ち望んでいて

今やっとそれが実現したというのにだ。


本来、二者択一する事柄ではないはずなのに。





ボクは、静かに娘に言った。


「悪いが、帰ってくれ」 と。



「お父さん」 と呼んでくれた娘は

信じられないといった顔をした。




「エッ!何いってんの、お父さん。

どうして?

私のおじいちゃんが亡くなったのよ。

元気な時に一度会いたかったのに。

お父さんにもやっと会えた。


いやよ、お父さん、私は帰りたくない、せっかく会えたのに」


そういって娘は泣きだした。



妻も部屋の傍らで泣きじゃくっている。



「いいから帰れ!」

ボクは怒鳴ってしまった。


23年ぶりにやっと再会できたばかりだというのに。



通夜の宴席は、凍りついた。

そこにはオヤジの棺を前に場にそぐわない情景が広がった。



みるみる間に娘の目から大粒の涙が零れ落ちた。


「どうしてお父さん、

どうして私が帰らなきゃいけないの。

お父さんと、おじいちゃんおばあちゃんに会いに来たのよ。

ここに居させて、お願い!」


彼女も泣きわめく。

部屋の隅では相変わらず妻が泣きじゃくっている。


その情景をボクの目は捉えていた。




ボクはもう一度怒鳴った。

「帰れッ!

つべこべ言わずに、いいから今すぐここから出て行け!」



娘は恨めしそうな目でボクを見ながら言った。

「私はお父さんに、二度捨てられた」



「違う、違うんだ」

ボクは心の中で叫んでいた。


「許してくれ、許してくれ」

喉の奥から振り絞るように言った。


「お父さんを許してくれ」




やがて娘はボクの前から姿を消した。

娘を抱きしめることすらできなかった。




ボクはオヤジの棺の前でうっ伏して泣いた。


オヤジの死を悼む気持ちと

娘との再度の別れを嘆く気持ちが激しく交錯していた。





            ◇


その時、息子は16歳、

今回NYで結婚式を挙げた娘はまだ10歳だった。


彼らは一部始終を見ていた。



その時初めてボクの3人の子が同じ空間にいたことになる。


ボクはそのこともずっと夢見ていた。

しかし彼ら姉兄妹が言葉を交わすことは一切なかった。




こうして23年間再会を待ち続けた父娘は

一瞬のうちにまた切り裂かれてしまった。






それから何事もなかったかのように月日は流れた。


そして約3年後、

皮肉な運命の歯車がまた回り始める。



(続く)



【お断り】

これは事実を基にはしているが

フィクションである。