書名 「翔べイカロスの翼」
著者 草鹿宏 出版社 一光社 出版年 1978
いまはなきキグレサーカスに5年間在籍した実在のクラウンくりちゃんの評伝である。この原作をもとに同名の映画がさだまさし主演でつくられた。この時の主題歌「道化師のソネット」は名曲として知られている。何十年ぶりで読んだが、28年という短い命をサーカステントの中で綱渡りの最中に落下して落としたこの青年のひたむきな生きる姿勢に胸が痛くなってきた。この評伝がしっかりしたものになっているのは、くりちゃんが残した5冊のノート日記をご両親から借りることができたことだろう。彼のひたむきに生きようとする叫びのようなものが彼自身の言葉で発せられている。それにしてもこの青年はまるで自分の命が28年しかないということを知っていたかのように生き急いでいる。なぜこんなに生き急いだのだろうと思ってしまう。普通の人たちの何倍も努力して芸をマスターし、道化師として道を拓こうとする。外国に行くというサーカスの先にある夢に早く近づこうとするがために、熟成を要するクラウンの道をなんとかしてショートカットで通りすぎようとしたからなのだろうか。自分にもそんな時代があった、もちろん彼ほど真剣にではないにしても、なにか欲するものに早く近づきたい、そのためになにか生きることにあせってしまうということがあったような気がする。そのために人生を楽しむということを忘れてしまう、それが若さということであり、青春ということなのかもしれないが・・・
日活ロマンポルノの女優東てる美が好きで、彼女がフランス座で公演していたときピエロからという名札をつけた花飾りを10日間贈りつづけていたことを、それが同じ水戸で公演していたサーカスのクラウンだったことを知って、彼女が葬式に出席、涙を流したというエピソードには思わずぐっときてしまった。