大福 りす の 隠れ家

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--- 映ゆ ---  第39回

2017年01月05日 23時28分14秒 | 小説
『---映ゆ---』 目次



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- 映ゆ -  ~Shinoha~  第39回




額に手をやり俯く長。

「長が知らなかったで済む話ではありません。 が、今この状態では長から礼の使いも出せないでしょ
う。 我がオロンガへ帰りましたら、すぐにでもゴンドュー村に行って上手く事情を説明しておきます」 

長はまだ俯いたままだ。

シノハの言う“今この状態” と言うのは2つの意味を込めて言った。
一つには村の立て直しで男手がいる。 そしてもう一つは、ドンダダや他の男たちのことであった。 こんなに大切なことを長に報告しなかった男たちのことだ。

「長、己如きが失礼ながら・・・」 長がやっと顔を上げシノハを見た。

「長とドンダダの話は婆様から聞きましたが、他の男たちは何と考えているんでしょうか?」 それに答えたのはタム婆だった。

「ドンダダが仕切っておるんじゃ。 ・・・多分、脅しをかけておるんじゃろうなぁ」

「脅し?」

「ああ、次の長は自分だ。 次の長に逆らったら、その時にはどうなるか分かっているだろうな、とな。 
そんなところじゃろう」

「あきれた・・・」 吐き捨てるように言う。

聞いていた長が今回の企みで、ドンダダが何を得ようとしたのか言い出した。

「ゴンドューの村から、わしに恥を受けさそうと考えたんだろうな」

「ああ、多分な。 それに、気の短いゴンドューの奴等じゃ。 ここへ乗り込んでくるかもしれん。 そうなるとお前を長の座から落としやすい」

タム婆の言葉に頷き、シノハが言う。

「聞いた話ですと、ゴンドュー村の殆どの男たちがトンデンの馬探しに出ていたということでした。 それに、ゴンドューの村人がすすんでしたことではなくて、ゴンドューの長が手を尽くすように言ったみたいですから、少なくとも長への礼がなければ・・・。
ゴンドューの村人は気は荒いですが、挨拶や礼に厳しいです。 自分たちの村長への礼がないと、乗り込みも有り得なくないと思います。 オロンガへ帰ってすぐに我が長からの伝令者になりますが、村が落ち着いたあとには長直々に足を運ばれた方が良いと思います」

「ああ・・・」 長が何度も頷いた。

本当はまだ他に言いたいことがあった。 でもそれはここでは言えない。 
ゴンドュー村は“馬を操る村” と言われているが、影を持つ影の村でもある。 その影の村とは“武人の村”。
彼らの腕っぷしの強さ、剣のさばきをシノハは嫌と言うほど知っている。 
何故なら、馬の乗り方だけではなく、戦いの手ほどきも受けているからであった。
もし戦うことになれば、この村は簡単にやられてしまう。 極端に言えば小指一本で潰す事が出来るだろう。

「婆様、もしドンダダが脅していたとして、若い男たちが言うことを聞いてしまうのはわかるのですが、ドンダダより歳の上の者は何と考えているのですか?」

「あの時言ったじゃろ、ドンダダの父がこの長と対立しておったと。 今までしてきたこと、考えを変えるというのは簡単なものではない。 長について来ようとする者が居らんわけではなかったが、ドンダダの父もずっとドンダダのようにしておった。 村を変えると祖からの怒りを買う、長の言うことなんかに乗っては、その身を祖が取りに来るぞと言っていいくるめておった。 ・・・もう居らんがな」

「身を返したのですか?」

「ああ。 天があっけなく身を取り上げた。 それで幾人かは長の考えについて来ようとしたが、その途端ドンダダが仕切りだしたんじゃ。 ドンダダの父に逆らわなかった男たちはそのままドンダダについておる。 ドンダダが長になってはいかん。 せっかく天が許してくれたというのに、また天に逆らってしま
う」 握りこぶしを額に当てたタム婆の言葉を継いで長が言う。

「ああ、婆とわしが居る間はトデナミを守れるが、わしらに何かあったときには・・・」 

長のその言葉にシノハが眉根を寄せた。

「トデナミ?」 言うとタム婆の後ろに立っているトデナミを見た。

トデナミが目をそらし顔を背けると、少し間をおいてタム婆が言う。

「・・・わしと同じ目に合うということじゃ」

「え?」 一瞬、タム婆の言う言葉が理解できなかった。

「・・・トデナミ?」 名を呼ぶと同時に、タム婆の言ったことがようやく理解できた。

目を大きく見開くと大声を上げた。

「馬鹿な!!」 一瞬のシノハの怒りを見てタム婆が目で制する。

「ドンダダはずっとトデナミを我がものにしたいと考えておる。 その上で自分との間に才ある女子が生まれればそれに勝るものはない。 わしが天に身を返すと同時にトデナミがこの村の“才ある者” となる。 その時にトデナミに手をかけるじゃろう」

淡々と話すタム婆。 
トデナミを他の村に逃がすことはできない。 この村の“才ある者” なのだから。 
トデナミの様子からトデナミもそのことを十分承知しているのが分かる。 
分かっている。 でも、分かっているで終わらせたくない。

「長、何か方法はないのですか」 叫びたい声を殺して静かに聞いた。

「今まで色々とやってきた。 村を変えたい、それだけを考えて・・・。 だが、あのドンダダの気迫に男たちが皆やられてしまっておる・・・」

「だからと言って、トデナミが犠牲になるなんて!」 

抑えきれない怒りが言葉の端に漏れてしまった。
婆様を守れなかった。 いや、守りたくても時が遡ってくれるはずもない。 話を聞いてただただ、悔し涙を流すことしか出来なかった。
でも、トデナミのことは今これから起ころうとしている。 悔し涙なんて二度と流したくはない。
我が村であったなら、勝つか負けるか分からなくても、拳ひとつに怒りを込めるが、ここではそうはいかない。

「シノハさん・・・」 

俯いていたトデナミがシノハを見て呼んだ。
呼ばれ、怒りに任せた目をそのままトデナミに向けてしまった。

「私は私の命(めい)を受け入れるだけです。 婆様の後を“才ある者” として受け継ぐだけです。 天の怒りを買うかもしれません。 その時には、私に出来うる限り天に謝り続けます」

「・・・トデナミ」

「そうならんように何とかしていきたい・・・」 長が苦々しい表情を作ると額を手で覆う。


何も解決しないままタム婆とトデナミに続いて長の小屋を出た。 が、今はトデナミを冷静に見られない。
歩をタイリンの方に向けた。

(あ・・・タイリンの手伝いの話をするのを忘れていた・・・) 

タイリンの元に行くと、森に出かけていた女たちが帰って来て夜の飯の準備をしているのが遠目に見える。

「女たちが帰ってきたんだな」 タイリンの横に座る。

「はい、水を必要としてくれます」 嬉し気に話すタイリンの顔を見て、シノハの顔がほころぶ。

「石もそろそろ使い物にならなくなってくるだろう。 また取りに行かなくちゃな。 悪い、せっかく長の所に行ってたのに、誰か手伝いを寄こしてくれることを話すのを忘れてしまった」

「気にしないでください。 水を切らしてしまうけど、俺一人でやりますから。 やっぱり明日にでも石を取りに行った方がいいですよね」 椀の水を見せた。 少しだけだが濁りが出ている。 

「ああ、そうだな」 椀を受け取り、臭ってみた。

「臭いはまだ大丈夫だな」 

「じゃあ、炭はこれを使っていいんですか?」

「それは駄目だ。 全部入れ替えなくちゃな。 よし、明日一緒に石を取に行こ・・・」 ここまで言うと後ろから名を呼ばれた。

「シノハさん、だね?」 振り向くとザワミドより恰幅のいい女が立っていた。

「あ、ジャンムの母さん・・・」 タイリンが言うのを背中で聞いたが、初めて見る顔に気をとられ名前をきちんと聞けなかった。

「はい」 返事をして立ち上がると拳を左胸に当てると、女が慌ててそれに応えるように額に指先を当て膝を少しおった。

「トワハの弟だって?」 子守をしていた女達から、シノハの人となりを聞き、安心して声をかけてきた。

「はい」

「信じられないね・・・」 どうも挨拶をしたことに驚いているようだ。 そしてシノハの顔をまじまじ見ると言葉を続けた。

「あのさ、大きな声じゃ言えないんだけどさ、うちの息子があんたと一度話しがしたいって言ってんだけど、話してやってくれるかい?」 

「はい、婆様の具合がだいぶ良くなられてきたので、時は作れると思います」 何の話かと頭をひねるが、顔は微笑みを返している。

「あ・・・あら、やだね・・・」 小声で言うと、一つ咳払いをして続ける。

「えっとぉ・・・ちょっとね・・・ドンダダに見つかるとアレだから、見つからないように頼みたいんだけどね。 無理かい?」 言われ少し考えると「少し待ってください」 と言い、振り返りタイリンを見た。
見られたタイリンは、頭を傾げる。

「こちらの母様の息子とタイリンはどんな具合だ?」 

母様なんて言ってもらったことのない女が、シノハに見られていないのをいいことに飛んで喜んだ。

「どんな具合って?」

「明日、一緒に川に行けそうか?」

「喋ったことは何回かあるから俺はいいけど・・・ジャンムがどう言うか・・・」 その返事にシノハの眉が上がった。

振り返り母親を見ると、慌てて母親が身を正す。

「明日、タイリンと川に行こうと言っていたのですが、その時に一緒にどうでしょうか? 長には誰かタイリンの手伝いをしてほしいと言っていたので、丁度いいかと」

「川に?」 キョトンとして聞き返した。

「はい、水作りの石を取に行くんです。 結構手間がかかるんです。 ですから話をする時間は十分にとれます」

「ああ、そう言うことかい、分かったよ。 じゃあ、ジャンムにはそう言っておくね」 嬉しげな顔でいそいそとその場を後にした。

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