五感で観る

「生き甲斐の心理学」教育普及活動中。五感を通して観えてくるものを書き綴っています。

見極めのタイミング

2007年05月30日 | 第2章 五感と体感
久しぶりに掛け軸の話です。

ここのところ仕事を理由に表装をサボっていました。
搬入期限が1ヶ月以内に迫っています。

先週末から作業に集中し、取りかかったことは確かなのですが、作品の和紙が天邪鬼で、なかなか私の言うことを聞いてくれず、相性が悪いのです。
気の合わない人と仕事をしている気分で作業台で格闘する事三日。
掛け軸の形式を決め、裂地や作品を切り継ぎ、それを和紙で裏打ちする作業に入りましたら、以前にも増して、作品が言うことを聞きません。
ぶつぶつ文句を巡らしながら裏打ちを終えました。

案の定、裏打ちは失敗です。

二日間この哀れな状態を眺めつつ、この先どうようかと迷い、思いきって剥がし直すことに決めました。この先、そのまま進んでも、私と和紙は、仲間割れを修復できず、後悔ばかりが残ると、判断しました。

和紙が機嫌を損ね、皺を寄らせていたので、それを元に戻し、また新たな決断を下しました。
止めよう。。。と。

この大らかな子(和紙)を裂地の枠に押し込めることは、到底無理。
少なくとも私の今の技術では不可能、と判断。

そして、急遽、別の作品を取り出し、その子を茶掛け(お茶席の床の間に掛ける軸)にすることに決めました。

おかげで私の精神衛生も良くなり、途中まで頑張った子も安堵のため息をついているように見えます。

見極めのタイミングは、決して早くなかったと思いますが、これ以上無理して進めていたらお互いに痛め合うことになったことでしょう。

ぎりぎりの判断に私も胸を撫で下ろしています。


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8 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (八王子の森)
2007-05-30 10:59:23
清清しく、迫力のあるお話で、思わず宮本武蔵の五輪書をイメージしました。今日は五輪書を読み返そうと思いました。明日は勉強会です。
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表具作者の心境 (Unknown)
2007-05-30 13:18:26
楽しく拝見しました。美術館や博物館で、古来からの掛け軸や屏風を楽しんできましたが、制作していかれる人々の心境はあまり考えた事がありませんでしたが、この文章を拝見して、紙との相性、その時の制作者の心境が微妙にでるんだ、と改めて視点を広げる事が出来ました。いつ見切りをつけるのか、どの世界でも同じですね。職人さんの出来、不出来も、どこで、どう妥協するのか、それで名人か下手なのか、の分かれ道が、このような神経で決まるのがとても面白く拝見させていただきました。成功をお祈りいたします。

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Unknown (露芳)
2007-05-30 16:41:01
新約聖書の一節に、新しい皮袋には新しいぶどう酒。古い皮袋に新しいぶどう酒を入れてはならない、、というのがありますが、まさに和紙もそうです。修復する古い和紙に新しい和紙を裏打すると痛んでしまいます。

最近、その一節が頭にぐるぐる回っています。

相性は、見た目ではわかりませんね。

お蔭様で、今日の作業を終え、次に進むことができそうです。
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和紙 (Unknown)
2007-05-30 17:02:59
不思議な話、表具で古来から使用されている和紙について素人でも分かる本がありましたら、お暇な折にでも紹介下さい。ものすごく興味が出て参りました。
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Unknown (michaela)
2007-05-30 17:35:46
今日、グレゴリー・コルベール展に行ってきました。
和紙を印画紙とした作品、不思議な雰囲気がありました。知り合いの知り合いにやはり和紙に写真を焼き付ける人がいます。表装のお話を思い出しました。
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Unknown (露芳)
2007-05-31 20:39:06
グレゴリ-コルベールの和紙、巨大でしたね。驚きました。しかも厚い。質感の生々しさまで伝わってくる。ほんと、不思議な作品です。

確かに、和紙に写真を焼き付けたり、コピー機に使える和紙を使い写真をコピーしたり、そんな作品を表具にする人も出てきました。

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Unknown (露芳)
2007-05-31 20:55:17
和紙の本。

私自身、知識はあまり、ありません。
ただ、江戸時代、献上品として和紙は各藩の中で、ヨーロッパ中世の錬金術師のような扱いを受け、その技術は秘伝中の秘伝だったと聞いています。
裂地も、仏教の宗派ごとに表具師が抱えられていたようで、柄の取り合わせとか、素人にはなかなか簡単には教えてくれません。本気でやるなら、京都の表具屋ででっち奉公しかありません。
門外不出の世界。。。

東京は、神田に小津和紙店があります。そこの和紙の在庫は、スゴイです。

それと、知り合いが、和紙保存普及の会をしていますので、文献、聞いてみます。しばらくお待ち下さい。

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感謝です (Unknown)
2007-06-01 06:41:14
貴重な体験談を有難うございました。また、お忙しい方に申し訳なく、しかし、楽しみでございます。宜しくお願い申し上げます。
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