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2018年8月21日
表装のお話 「待つ」
一旦涼しくなると、暑さのぶり返しが身体に堪えます。
お盆過ぎから急に涼しくなり、身体が楽になった分、八月末の残暑に少々の覚悟を持たなくてはならないようです。
7月8月は、家に居る時間はほぼ表装作業に費やしてきましたが、そろそろ仕上げの段階となってきました。
正麩糊で裏打ちをした掛け軸は、一日でも長く貼り込みをすると暴れずスンと下がります。できる事なら一つの季節を跨いで時間をかけて打っていきたいのですが、そうそう余裕を持って出来るものはありません。
「表具を打つ」という通り、大きな太い棕櫚刷毛で、和紙を載せ、絡めながら打っていくので、「貼る」という概念とはちょっと違うのです。和紙の繊維と絡め合わせることで一体化していくのです。この兼ね合いの体感を覚えるのに、年月を要します。
そのような作業工程であるため、正麩糊を使用した場合、一幅の掛け軸を仕上げるには、裂と本紙の裏打ちを終えた段階から、最低でも一か月の時間は欲しいものです。
そういうわけで、科学糊や機械貼りとは違います。
昨日、イタリア人が金継ぎを習いに京都の金継ぎ師を訪ね、さらに、東北の漆の木を栽培し、漆を採る農家で漆採りを体験する番組を放映していました。
日本の工芸技術は、「待つ工程」が多いのが特徴かもしれません。
乾くまで待つ。馴染むまで待つ。
急いては事を仕損じ、最初から結局やり直しとなるので、職人は「待ち方」を覚え、仕上げる物が待つ間の変化していくことを微妙に読み取る事が、技の深さでもあるように思います。
下がりの良い、しなやかで柔らかい掛け軸を目指して、修業は続いているわけですが、それを叶えるには、きっと短い人の人生では、間に合わないくらいのものであるようにも思います。「できない、できない」言いながら、精進し続けている人は、芸術の世界であれ、技芸の世界であれ、職人の世界であれ、そういう人が世々に次ぐほんまものを継承していくのかもしれません。
何事も同じことを何度何度も修練する気力を持ち、実行している人の事を「才能を持っている」というように私は思っています。
これでもか、と練習している人、修練している人の姿は美しいです。
「練習はこれくらいで、、、」という人は、明らかに凡人です。
私は自分に甘く凡人なので、その辺のところはよくわかります。
お手本の師匠に私の人生の過程で出会っていること自体が、私の宝物です。
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