Mr.コンティのRising JAPAN

マスコミの書かない&書きそうもない!スポーツ界の雑学・裏話を、サッカーを中心にコメントを掲載していきます。

New Zealand All Whites Bahrain 破り28年振りの悲願達成

2009-11-16 | 夏季五輪

2006年6月4日。ワールドカップドイツ大会開幕を数日後に控えスイスジュネーブの Stade de Geneve 競技場には32,000人の観衆が集まった。彼らのお目当ては前回大会で優勝したブラジル代表。そして対戦相手はニュージーランド代表だった。
大会直前の最終調整と1次リーグで同じグループに属する“仮想”オーストラリア対策でもあったらしい。ブラジル代表はレギュラーメンバーがほとんどスタメン出場し観客は大喜び。ニュージーランドも立ち上がりから頑張り43分にロナウドに先制されるまで失点を許さなかったが後半はアドリアーノ、カカ、ジュニーニョに得点を許し 4-0 で敗れた。
ブラジルにとっては完全な調整試合でその調整相手のニュージーランドに興味を示す観客は殆どいなかった。
きっと屈辱感を感じたと思う。この時指揮を執っていた Rickey Herbert 監督は心の中で誓っただろう。 

     4年後は必ず出てやる….と…..

Referee: Jerome Laperriere (Switzerland).
Brazil 4 (Ronaldo 43, Adriano 51, Kaka 86, Juninho 93) New Zealand 0.
Halftime: 1-0.

New Zealand (4-4-2): Glen Moss, Noah Hickey, Danny Hay (captain/Bunce 25/Raf de Gregorio 82), Steven Old, Kris Bouckenooghe, David Mulligan (Jarrod Smith 60), Ivan Vicelich, Jeremy Christie (Tim Brown 66), Leo Bertos (Chris James 86), Vaughan Coveny (Jeremy Brockie 76), Chris Killen.

Brazil (4-2-2-2): Dida, Cafu (Cicinho 75), Lucio, Juan, Roberto Carlos (Gilberto 64), Ze Roberto (Juninho 64), Emerson (Gilberto Silva 64), Ronaldinho (Ricardinho 75), Kaka, Ronaldo (Robinho 46), Adriano.



あれから3年5カ月が経った2009年11月14日。ワールドカップに向けて最後の大勝負、バーレーン戦に Wellington の WESTPAC Stadium で臨む事になった。
午後7時過ぎ、ホテルから競技場に向かうが同じ方向に向かう人の行列が。 WESTPAC 競技場は街の中心街に位置しており中央駅(と言ってもほとんど電車は走らないらしいが)のプラットホームから入口まで続いている。

      

みな示し合わせたように白色の服を着ており食品工場で着られる使い捨ての白い作業着を着る人達も少なくなかった。私の様に All Blacks のジャケットを着る人はこの日ばかりは皆無に等しく、黒のジャケットを着る人でもちゃんと New Zeland Football と刺繍が入っていた。

          

競技場は小さな赤一色のバーレーンサポーター席以外は白一色であった。試合開始20分前だと言うのに手拍子に“ All Whites !! “の掛け声、そしてアップをしていたバーレーンの選手達が控室に戻り始めると大ブーイングと口笛を送る。ここで欧州や南米並みのサポーター声援が見られるとは….やはりサッカーは世界中にあるのだ。
          
          
選手が入場し両国の国歌が演奏される。勿論後から流れたニュージーランド国歌には大観衆が一斉に合唱をする。
ピッチの上に散った選手達を注視する。特にニュージーランドは本当に3バックを採用するのか?と目を凝らすとBertos が右サイドの中盤に。あぁやはり3バックか…と思う。そしてバーレーンは Salman Isa を左サイドにおいた。10月のマナマでの試合では右サイドであったらしいがこれはBertos の裏を突く為と Bertos 自身の上がりを抑える為だろう。

                     ① GK Sayed Jaffer

   ⑮Abdulla Omar    ⑯ Sayed Mahfoodh   ⑰ Husain Baba  ⑫ Fauzi Aaishu 


                      ⑩ Mahmed Slaeem             ⑦ Sayed Jalal  


        ⑤ Mohammed Hubail                            ⑭ Salman Isa


              ④ Abdula Fatadi     ⑥ Jaycee John Okwunwanne


                    ⑭ Rory Fallon

         ⑩ Chris Killen                    ⑨ Shane Smletz


 ③ Tony Lcohhead   ⑫ Michael McGlinchey   ⑧ Tim Brown        ⑪ Leo Bertos

  
        ⑤ Ivan Vicelich    ⑥ Ryan Nelsen      ④ Ben Sigmund


                      ①GK Mark Paston

マナマでのスタメンからバーレーンは Jayce John のワントップとなりFW Husain Ahmed が外れて Abdula Fatadi がMFに入った。 ニュージーランドは MFに McGlinchy が Simon Elliot に替って起用された。 McGlinchy はマナマでの試合で68分から投入されチームに攻撃のリズムを与えた。 Tim Brown , Leo Bertos , Chris Killen そして Ivan Vicelich の4人が3年前のブラジル戦に出場している。

開始15秒右サイドからの Joyce John のミドルシュートで幕が開ける。バーレーンはMF Fatadi が右サイドいっぱいに開き更に S. Isa が Bertos の上がった裏を突く。序盤はマイボールとなると左から M.Hubail, A. Fatadi J.Johnそして S. Isan らが4トップ気味にラインを作る。特に M. Hunail, S. Isaが両サイドを突いてくる。立ち上がりやや硬さの見える All Whites は防戦気味。何とか Nelsen が攻撃を跳ね返すが Sigmund が J.John へのタックルでイエローカードが出された。これで Sigmund は累積警告が2枚目となりこの試合に勝ってもワールドカップ初戦には出場できない。だが今はこの試合のことしか頭になかっただろう。
立ち上がりは守勢だった All Whites だったがセットプレーをきっかけに地元の大歓声を受けて徐々にペースを掴んでくる。特に Bertos が右サイドから走り込んでそしてFK,CKでは効果的にクロスを上げる。高さでは有利な All Whites は8分には Sigmund 、14分には Killen がヘッドを放つがこれらは Bertos のクロスから。18分、右サイドで Bertos が入れたボールを背中にDFを負いながら Killen が振り向きざまにシュートを放つが惜しくもバーを叩いた。21分には Bertos が S. Jalal に倒されて得た FK を Bertos が今度は自ら直接狙うがおしくもクロスバーの僅か上を通過する。 All Whites は右サイド突破,時折逆サイドにも顔を出す Bertos のポジション取りそしてドリブルを武器に完全に中盤を支配してしまった。マナマでは見られなかったシーンがここでは序盤から披露される。
攻勢を続けるうちに何とか先制ゴールが欲しいところだが31分には今度はバーレーンが Vicelich のファールでFKを与えそこから波状攻撃を見せる。FKは一旦ヘッドでクリアーされるがそれを拾った A. Omar が中に入れ M.Hubail がそのまま強烈なボレーを放つがここは GK Paston が弾く。こぼれたところを再び M. Hubail がゴール前に入れるとカバーに入った Bertos に当たり詰めて来た M. Saleem の前に落ちるがここも GK Paston が必死のセーブで最後は Bertos のクリアーで失点を免れたが危ないシーンであった。
中盤を支配されたバーレーンも攻撃はセットプレー頼みだが、30分を過ぎると倒されてもなかなか起き上がらない様になり大観衆からブーイングが飛ぶ。 
41分 All Whites が決定的なチャンスを作る。 Bertos が右サイドで S. Isa をかわして Aaish がマークに入る前に中に入れたクロスを中央でフリーだった Fallon がヘッドを放つ。観衆が一斉に立ち上がるが 至近距離からのヘッドをGK Jaffer が左手1本で弾き出すスーパーファインセーブを披露しFallon と観衆達が頭を抱える。惜しい決定機だったがここはGK Jaffer を褒めるべきだろう。
その直後に今度はバーレーンが左サイドでFKを得る。Isa のFKが中央に飛ぶが Fatadi と J.Jhon の二人がフリーなのにかえって重なってしまってシュートが撃てなかった。 All Whites にとっては助かったシーンだった。
そして前半もこのまま 0-0 かと思われた44分 All Whites は Bertos が上げた CK を Fallon が再びヘッドで捕えるが今度は GK Jaffer も防ぐ事が出来ずゴールネットを遂に揺らした。 
        

大歓声が競技場内を渦巻く。その前の決定機を防がれた Fallon が今度はバーレーンゴールに捻じ込んだ。何度もCK, FK のセットプレーからチャンスを作っていたがようやく先制ゴールが生まれた。そして再び大歓声と共に前半終了の笛が湧き上がった。バーレーンにとっては痛い時間帯の失点であったが次にゴールを上げれば立場はがらっと変わってしまうのでまだまだチャンスは残っていると思った。

        

後半にはいるとバーレーンは最前線を Fatadi と J.Jhon の2トップにし、M. Slaeem を2列目の中盤に上げて右に M. Hubail, 左に S. Isa を置き攻撃力をアップさせた事によりバーレーンの攻撃が続いた。そして50分 WESTPAC Stadium が静まり返る。 All Whites PA内に侵入した Omar に Fatadi のスルーパスが通ったところを後ろから Lochhead が倒してしまい主審がペナルティースポットを差した。初めはPKを与えた事がなかなか解らなかった。しかし J. John がバーレーンサポーター席に向かって両手を上げて歓声を煽るジェスチャーをし、他の選手が全てPAから出てしまったのでPKだと解った。 観衆はボールをセットした Sayed M. Adnan にプレッシャーを与えるべくブーイングを発する。ここでPKが決まれば立場は完全に逆転する。しかし Adnan の蹴ったシュートを GK Paston が右に倒れ込んでセーブし大ピンチを救った。 
        

先制ゴールが決まった時よりも大きな歓声が渦巻く。 Paston 一世一代の超ファインセーブであった。
Adnan が顔を覆ってしまう。それでもバーレーンは何とか同点を目指して猛攻を繰り返す。 54分 J. John が Sigmund を背負いながらシュートに持ち込むがボールはサイドネットに。55分にも前線にスルーパスが入るがこれはオフサイド。58分左からクロスが入るがここは落ち着いて Nelsen がクリアー 59分、 Omar からボールを受けた M. Saleem が右からクロスを入れるが Paston がキャッチ。61分には CKから S. Isa がヘッドを放つがこれはPaston の正面。この日は Nelsen の攻撃参加が少なかったがそれ失点を防ぐ為であったと試合後語っていた。
劣勢の All Whites は64分に McGlinchey に替って Andy Barron を投入する。マナマでの試合そしてFIFA Confederations Cup でも出場機会の無かった選手だ。  69分久々にバーレーンゴール前に迫った All Whites は決定的なチャンスを逃す。 Bertos が Aaish を振り切って入れたクロスをフリーだった Smeltz が撃つがポストの僅か右に外れる。決まっていれば All Whites がかなり優位になるところであったが..

なかなかゴールが奪えないバーレーンは73分 左サイドバックの Aaish を下げてそこに Isa を置いて2列目右にはサウジアラビア戦で奇跡の同点ゴールを決めた Ismaeel Latif を入れ、79分に Sayed Jalal を下げて Mohamood Abdulraham を入れる。右サイドバックに入った S. Isa を左サイドバックに回し、 Abdul Omar を中盤に上げ Mohamed Hubail を左サイドバックに入れる。そしてマイボールになるとCBの Adnan、 Baba の二人を残して全員が上がってくるしかしまだ焦る時間ではないのだがパスが上手く繋がらなくなってしまいシュートに持ち込めない。All Whites DF陣は Bertos, Lochhead が下がって5バックになり対応する。そしてカウンターで2点目を狙うが残るバーレーンCBの二人が必死の守りで2点目を許さない。バーレーンはとにかく得点を取らねばならないが All Whites にとってはこのまま守り切ればワールドカップ出場となる、しかし1点取られると全く立場が変わるので難しい時間帯になってきた。
85分にバーレーンベンチは M. Hubail を下げて Ahmed Taleb を入れて右サイドの2列目を替える。70分あたりから風が強くなりバーレーンの方がやや追い風となる。選手達のユニフォームもかなり風で揺れてくる。
90分になりロスタイムが3分とアナウンスされる。スクリーンにはマチャラ監督がアップになる。Tim Brown が空中戦の競り合いで接触し足を痛めて立てない。 Andy Boyes が投入される。両チームとも最後の力を振り絞るがシュートシーンを演じるのは All Whites の方ばかり。91分26秒には Bertos からボールを受けた Chris Wood が左サイドからクロスを上げフリーの Smeltz がヘッドで狙うが少し前に入りすぎてジャストミートしない。 91分48秒には Wood からのスルーパスに抜け出た Smeltz が再びファーサイド側を狙うがポストの僅か左を転がりぬけていく。
ロスタイムに入る少し前から観客は白いシャツやマフラーを振りまわす。

       

92分33秒 Vicelich が相手を倒して FKを与える。バーレーン最後のチャンスだ。ほぼ全員が前線に張りだすが Fatadi のヘッドはPaston の手に時計は93分を過ぎた。 Larrionda 主審が Paston のもとに駆け寄りボールを渡すように促し Paston が渡すと右手を上げてタイムアップのホイッスルを吹く。ピッチ上そしてベンチの選手達が一斉にGK Paston のところに駆け寄り喜びを爆発させる。観客席も大騒ぎだ。

       

バーレーン選手達はそのまま控室に直行する。顔を覆っている選手も。あぁ勝敗の無情……

       

Man of the Match はPKと云う絶体絶命のピンチを救った GK Mark Paston 。本来第1キーパーは出場停止中の Glen Moss だが(ワールドカップの第二戦まで出場停止)これで押しも押されぬ正GKとなるのではないか?
Herbert 監督が報道陣そして関係者にもみくちゃにされている。しばらく忙しい日々が続くだろう……

       

歓喜は夜遅くまで続いたと思われる。ホテルに帰るまでどのバーも満員だった。そしてホテルのバーも。前回のワールドカップ出場決定は遠くシンガポールでの中国とのプレーオフだった。目の前の自国サポーター達の前ので決まったのは初めて。
(そういえば日本はまだ日本でワールドカップ出場を決めていないなぁ....)

この快挙のおかげでサッカーファンも市民権を得られるだろう。私は部屋で1人この試合の再放送を見ながら昼間買っておいた寿司をつついた。何人かのマスコミを含めた日本人達は、チェコ、スウェーデン、クロアチアが予選で落ちてニュージーランドが出るだなんてと公言するだろうがそれは日本も同じだ。世界中で歓喜があるからワールドカップなのだ….そう再認識させられた夜だった。それにしても風が強くて冷たかったなぁ….
そして翌朝、同じホテルに宿泊するこの国のサッカー関係者は少なくなかった。チェックアウトして空港に向かう前に彼らと立ち話をする時間があった。そして最後にこう言うと彼らはにっこり笑って固い握手をしてくれた。

               See you in South Africe !!