鬼平や竹鶴~私のお気に入り~

60代前半のオヤジがお気に入りを書いています。

お気に入りその778~古い鳥類図鑑2冊

2013-07-20 12:49:31 | 鬼平・竹鶴以外のお気に入り
今回のお気に入りは、古い鳥類図鑑2冊です。

今回取り上げるのは、黒田長禮著「新版鳥類原色大図説」と小林桂助著「原色日本鳥類図鑑」。

黒田長禮著「鳥類原色大図説」は日本三大鳥類図鑑のひとつに数えられる名著。
昭和8年に宮内省が自費出版した非売品です。
著者の黒田長禮は日本で鳥類学の博士号を初めて取得した人物であり、日本鳥学界会頭も務めました。
収録された1000を超える原色図版は小林重三が描いています。

・・・でもそんな素晴らしい本を購入することはできません。
という訳で、著者の息子である黒田長久が監修した新版(昭和55年版)を入手しました。
原本との違いは、黒田長久がごく一部の図版を描いたことと、黒田長久から依頼された若い研究者2名が解説文を最近の研究結果に合致させたことの2点です。
そのお陰で、鳥類図版はほとんど小林重三の作品で鑑賞向きである上、解説文は図鑑としての機能を十分果たす、という一石二鳥の図鑑となっています。
今は芸術的でかつ細密な小林重三の図版をたっぷりと堪能しています。
なお監修者の黒田長久は、山科鳥類研究所名誉所長、日本野鳥の会会長という肩書きが示す通り、この伝説的名著を実用的なものに蘇らせる適任者でした。

つぎは小林桂助著「原色日本鳥類図鑑」。
昭和31年初版の古い図鑑で、今回届いたのは昭和35年発行の第3刷。
鳥類観察者の間で「コバケイ図鑑」と呼ばれて親しまれ、11万部以上も売れた有名な実用図鑑です。
本書についてネットで調べると、サラリーマンの給料が15000円のころに1900円で売られていたそうです。
給料が15倍になったと仮定すると本書の価格は28500円!
そんな高価な図鑑が11万部以上も売れたのは、鳥図版の出来の良さと持ち歩きのしやすさが原因だったようです。

鳥の図鑑は写真よりイラストの方が詳しく特徴がわかるので良いといわれます。
本書に収録された425図は宮本孝画伯が剥製を元に1年をかけて描いたそうです。
小林重三ほど生き生きとした姿には描けませんでしたが、時に誇張が過ぎるといわれた細密図版は種の同定に適しており、野外鳥類観察者必携の書になったようです。
鳥の専門家の中には、小林重三の図版より宮本孝の図版を支持する方もいるそうです。
私のような素人はそこまで深くわかりませんので、柔らかさ自然さで小林重三の図版に軍配をあげますが・・・。

ちなみに「コバケイ図鑑」は、画家が剥製標本を写生して図版を描いた最後の鳥類図鑑で、その後は写真図鑑に完全移行したそうです。

最後にオマケで、「コバケイ図鑑」の著者小林桂助に関する面白いエピソードを書きます。
国立科学博物館の名誉研究員 森岡氏が書いた著者への追悼文の一節です。
「小林さんは(中略)大雪山に登ってナキウサギを発見する(1929年)などしている。」
「小林さんは自身でもコレクションの研究を行っていたが、鳥類なら黒田長禮氏や籾山徳太郎氏、ナキウサギは岸田久吉氏というように、研究を専門家の手に委ねていた。」
ナキウサギ発見の経緯について調べましたが小林氏の名は出てきません。
でも国立科学博物館の名誉研究員が書いている以上、きっと発見は真実なのでしょう。

同じ素人出身の研究者である牧野富太郎なら関わったものはすべて自分の手柄にしたはず。
このエピソードに生涯素人研究家を貫いた著者の育ちの良さが感じられます。

今回取り上げたのは、まったく性格の違う2冊の図鑑。
どちらも一時代を築いただけあって、物語がたっぷり詰まっている貴重図鑑です。
今後は事あるごとに引き比べして解説文の違いを楽しみたいと思います。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« お気に入りその777~鳥を描き... | トップ | お気に入りその779~映画DV... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

鬼平・竹鶴以外のお気に入り」カテゴリの最新記事