鬼平や竹鶴~私のお気に入り~

60代前半のオヤジがお気に入りを書いています。

お気に入りその1345~林業図鑑

2017-04-03 12:12:14 | 鬼平・竹鶴以外のお気に入り
今回のお気に入りは、林業図鑑です。

「日本の博物図譜 ~19世紀から現代まで」という本に、岡順次という画家が描いたマユミの図版が掲載されていました。
とても美しく細密な図版に、しばし見とれました。
もっと大判で鑑賞しなおしたいと思い、元本を探すことにしました。
図版の添え書きには「原色日本林業樹木図鑑」原図、地球社蔵とありました。

その「原色日本林業樹木図鑑」について調べてみました。
ネットにほとんど書き込みが無く、ようやく見つけたのは次の2つ。

ひとつは金沢大学学術情報リポジトリというHPに載っていた、正宗さんという方の記述。
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第1巻についでこの第2巻では80種の樹種が全巻同様図説されている。
今度は第1巻とちがい、樹種の分布図は前巻では樹種の図の上にセロハン紙のような透明な紙に分布地図が緑・藍色などで示されていたが、第2巻では巻末の方に分布図としてまとめられて、種ごとに記載され、またその種について、この著者の思い出といったようなものが、美しい文章で書かれている。
私はまだ一部しか読んでいないが、日本のこのような学術の本でこんな文章を読んだことがないので、非常に面白く思った。
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次は、指田豊さんという方の「植物図鑑解説」。
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全5巻で約350種の日本の有用樹木を図説してある。
図はA4の1ページに1種ずつ専門の植物画家が描いており、花部や葉の拡大図も載っている。
美しく、正確なすぐれた図鑑である。
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これにも巻末に著者・倉田悟の随筆がある、と書いていました。

2つの情報から本書が、図版が美しく正確であること。
学術書でありながら、著者の思い出を美しい文章で書いていること。
という2点に興味を持ちました。

科学と芸術の融合した図版をこれまで楽しんできた身としては、ぜひ鑑賞したい図鑑です。

たまたまネットオークションに「原色日本林業樹木図鑑」第1巻・第2巻が出品されていたので落札しました。
第1巻が1964年、第2巻が1968年の発行とのこと。
2巻セットで1000円は、実に安かったです。
発行から50年も経って、本書の素晴らしさを知る人が減ったからでしょうか?

第1巻を手に取りました。
最初にもくじで「マユミ」を探しましたが、載っていませんでした。
第3巻以降の掲載だったらと思いつつ第2巻を調べると、載っていました。
A4判いっぱいに描かれた美しい図版をじっくり鑑賞しました。
やっぱりこういうものは、大きい図版で鑑賞するに限ります。
そしてマユミについての随筆を読みました。
美しい文章というより、面白いエッセイでした。
コケシ製作の材はマユミが良いが、それをナオミと勘違いしている人がいたというお話。
銀座のバーで「真由美さん」よりも「奈保美さん」と親しかったのでは?なんて書いてありました。
学術書なのに東大教授がこんなことを書いているのですから、インパクトは大きかったでしょうね。
それでも第5巻まで続いたということは、エッセイも含めて人気があったのでしょうね。

このたっぷりのエッセイは、図版鑑賞の後のお楽しみに取っておきます。

こうして目的の図版とエッセイを確認して一安心してから、第1巻のまえがきを読みました。
そこには、本書が、明治34年発行の「日本森林樹木図譜」と「北海道主要樹木図譜」という二名著を継ぐ志のもとに編纂されたと書かれていました。
どちらも復刻版や元本で鑑賞しており、大いに納得できました。
そうですか、本書はあの2冊を目指して制作されたのですか。
全く知りませんでしたが、あの2冊を愛する者として、それを引き継ぐ書に出会えたことをとても幸運に思っています。

もう一点、原画制作のメンバー一覧にも、予想外の名前との出会いがありました。
今回本書に出会うきっかけになった岡順次氏は日本理科美術協会の所属だそうで、図版のほとんどをこの協会の会員が描いていました。
一部の図版を描いた他の団体の画家に、よく知った名前がありました。
日本山林美術協会 太田洋愛、国画会 立石鉄臣。
かたやボタニカルアートの草分け、かたや細密技法を極めた画家として著名な存在です。
どちらも多くの才能ある画家を育てたことでも名を残しました。

図版の鑑賞中、第2巻の65図モッコウと72図タイミンタチバナは、葉や実の照りの描き方があまりに自然で、思わず誰が描いたのかをチェックしました。
どちらも立石鉄臣でした。
やっぱり!と一人頷きながら図版鑑賞を続けました。

長くなりましたが、最後にどうしても書いておきたいことがあります。
第1巻の作りについてです。
樹木1種類を解説する構成は次の通り。
左1ページ  上半分:日本語解説、下半分:英語解説
右1ページ  A4全面に植物画家が描いた原色植物図版
その間にパラフィン紙のページがあり、国内の分布地が記されています。
半透明なので、分布図を見ながら解説を読むことができます。
実に贅沢でお洒落な作りに舌を巻きました。
ちなみに第2巻では分布図は巻末に追いやられましたが、先に書いた通り分布図の脇にエッセイが添えられるという、これまた読者をうならせる仕事をしています。

いい仕事をしていますねぇ!
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