鬼平や竹鶴~私のお気に入り~

60代前半のオヤジがお気に入りを書いています。

お気に入りその2361~清浄島

2024-09-10 12:34:16 | 鬼平・竹鶴以外のお気に入り
今回のお気に入りは、清浄島です。
今年直木賞を受賞した河崎秋子。
4年前に「土に贖(あがな)う」を読み、その骨太の文章に魅力を感じたものでした。
2年前にはコロナ禍ということで「清浄島」を購入しました。
北海道の礼文島でエキノコックスの人への感染が続いたため、全島の飼い犬を殺処分して根絶したという史実を小説化したものです。
離島という閉ざされた世界のこととはいえ感染症との闘いに勝利した確かな記録として読もうと思ったのですが、なぜかタイミングが合わず、コロナ明け1年もしてから読むことになってしまいました。

舞台は昭和29年の礼文島。
当時、島では薪を暖房に使っていました。
ある年、島は山火事で多くの樹木を失いました。
島民は薪の不足を恐れ苗木を植えますが、ネズミの食害で苗木が育ちません。
その対策として島外から連れてこられたキツネがエキノコックスを持ち込んだのでした。
10年の潜伏期間を過ぎて症状が現れた患者はお腹が大きく膨らみ、肝機能障害や流産などで半数が命を落としたそうです。
北海道から派遣された専門家チームが出した対策は、島民たちの飼い犬・飼い猫を全て殺処分するというものでした。
後に清浄島宣言をすることになる闘いはこうして始まりました。
物語は学者・役場職員・村会議員の3人を中心に展開していきます。

ペットを供出した島民たちの苦しみ、殺処分を行う者たちの苦しみ。
妻のペットロスでいまだに犬が飼えない私にとっても、読んでいて辛い時間でした。
それだけに清浄島宣言は清々しい気持ちになりました。
フィクションならここで終わるのでしょうが、本書は史実を骨子にしています。
その後の暗雲についても触れています。
そのため締りの悪いエンディングになってしまいました。
小説としてはその辺りが少し残念でした。

それにしても戦友といえる学者・役場職員・村会議員の3人のうち、1名が欠けたときの喪失感は胸に応えました。
自分自身、まだ"戦友"を失っていませんが、いつか必ず別れが訪れることを実感してしまいました。
だからこそ"戦友"との残された時間を大切にしたいと思いました。
こういう気持ちになったのは著者の力。
また読もうと思います。

コメント
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