元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「ホルテンさんのはじめての冒険」

2009-04-10 06:40:28 | 映画の感想(は行)

 (原題:O'Horten)さほど面白い映画ではない。理由は描写全般が“ぬるい”からである。主人公ホルテン(ボード・オーヴェ)は長年ノルウェー鉄道で運転士として働いてきた。定年で円満退社となるはずだったが、最後の勤務日の前夜に開かれた送別会終了後の“トラブル”によって外泊を余儀なくされる。挙げ句の果てに翌日は遅刻。列車は彼を置いて出発してしまう。

 大過なく運転士稼業を終えるはずが、最後の最後で手違いが発生。おかげでかねてより抱いていた定年後に向けての心積もりが雲散霧消する。思わぬ事態に直面した初老の男のディレンマを描くベント・ハーメル監督作だ。

 定年退職した男が自分自身を見つめ直す話といえば、ジャック・ニコルソン主演の「アバウト・シュミット」あたりを思い出す。ハッキリ言ってあの映画は上等ではなかったが、この映画はさらにつまらない。なぜなら、ホルテンは定年前から半分死んだような生活をしていたからだ。

 彼には妻子もなく、ダイヤ通りに列車を動かしては職場と家と運行先の宿泊所とを行き来する毎日。来る日も来る日も寸分の狂いもない決まり切った時間を過ごす。実直と言えば聞こえは良いが、面白味のある人間ではない。そんな彼が職務を終えようが最後の勤務で失敗しようが、ほんの少し目先が変わるだけで“死んだような生活”の本質には変わりがない。したがって、そこに何らかの映画的興趣が醸成されるとは考えにくいのだ。

 それでも本作は主人公の信条が揺らぐようなモチーフを用意しようとしている。しかし、たかが空港に勤めている友人を見つけ出すのに苦労したり、愛用のパイプが無くなったり、所有するヨットを手放したり、はたまた変わった趣味を持つ老人と知り合ったぐらいでは、屁の突っ張りにもならないだろう。終盤は思い掛けぬロマンスの予感も挿入されるが、これはいかにも取って付けたようだ。ハッキリ言って、このエピソードを申し訳程度に付け加えるならば、最初からテンション上げて突っ込んだ方が数段説得力のある展開になったと思う。

 まあ、ケナすばかりでは何だから見どころも挙げておこう。それは主人公の職業にちなんだネタである。鉄道マンの生活と矜持、特に表彰式や送別会での“しきたり”や独特な会話の内容は興味深い。そして、トンネルを抜けて大雪原を疾駆する列車の描写は素晴らしい。もしも鉄道ファンがこの映画に接すれば、大喜びすることは想像に難くない。濃いめの色遣いが目立つ映像も悪くないと思う。
コメント
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