元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「霧の中の風景」

2009-04-13 06:42:16 | 映画の感想(か行)
 (原題:Topio Stin Omichli)88年ギリシア=フランス合作。幼い姉弟がまだ見ぬ父親を求めてギリシアからドイツまで旅するというロード・ムービー。監督は「旅芸人の記録」「アレクサンダー大王」で知られるテオ・アンゲロプロスだが、出来不出来の激しいこの作家の作品群の中では、この映画は良くない部類に属する。

 ロード・ムービーというと「パリ、テキサス」はじめとするヴィム・ヴェンダース監督の諸作品とか、アメリカ映画だったら「レインマン」や「ミッドナイト・ラン」という映画を思い出す私であるが、そんな映画とはまるで違う。それらの映画の主人公たちは、旅するうちに何かを得るとか、人間的に成長するとか、また何かを清算して新しい生活にのぞむとか、要するに何かしら変わっていくというのが普通だった。変わることが映画のテーマであった。しかし、この映画の主人公たちは全然変わらない。むしろ変わろうとしないのだ。

 旅する子供たちの前にあらわれる大人たちというのが、どいつもこいつもみじめったらしい連中ばかりだ。彼らを引き受けてくれない伯父さんがまずそうだし、保護してくれるはずの警官たちも降る雪に見とれてぼんやりしているだけ。夜の街ではウェディング・ドレス姿の若い女が泣きながらレストランから走り出て来るし、ひん死の馬が路上に捨てられている。姉弟を拾ってくれた旅芸人の一座は波止場で衣装を投げ売りして解散し、唯一親切にしてくれたオレステスという青年も兵隊にとられて去って行く。

 しかし姉弟はそんな大人を見ても何とも思わないみたいだ。最初から保護を求めていないしアテにしていない。乗せてくれたトラックの運転手が姉を乱暴しても、ショックを受けた様子もない。世の中とはそんなものだと観念しているかのようだ。ひょっとすると母親に対してもそういう感じであっさり捨ててきたのかもしれない。

 この世には頼るものなど何もないというニヒリズムこそがこの映画のテーマかもしれない。だったとしたら私はそういう暗い映画には用はない。さっさと忘れるのみだ。 わざと天気の悪い日ばかりを選んで撮影された画面は憂欝を誘う。まったく気の滅入るような映画である。
コメント
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