元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「私の少女」

2015-06-15 06:29:38 | 映画の感想(わ行)

 (英題:A Girl at My Door )見応えのある映画だ。孤独な魂を持つ主人公二人の“道行き”を切々と描くと共に、社会的マイノリティが舐める辛酸をヴィヴィッドに浮き彫りにする。プロットは堅固で、ドラマが弛緩することも無い。本年度のアジア映画を代表する佳編である。

 ソウル地方警察庁に勤めていたキャリア女性警察官のヨンナムは“ある理由”により田舎の港町の派出所へ左遷されてしまう。そこで彼女は、母親が蒸発して継父と義理の祖母に虐待されている少女ドヒと出会う。何とか彼女を救いたいと思ったヨンナムは一時的にドヒを引き取るのだが、自身のある秘密が明らかにされ、窮地に陥ってしまう。ドヒはヨンナムを助けるべく、大胆な行動に打って出るのであった。

 ドヒの造形が出色だ。無邪気さと狡猾さとが交互に表出し、愛らしさと残虐性とが巧みに混ざり合う。この得体の知れない存在感が醸し出されるようになったのは、もちろん彼女自身の責任ではない。理不尽な虐待と“母親のいない子”に対する世間の白い眼が悪いのだ。

 演じるキム・セロンのパフォーマンスは素晴らしく、世の中を達観したような眼差しは、観ていて居たたまれない気持ちになる。「アジョシ」や「冬の小鳥」で演技派子役として注目された彼女だが、十代になって独特のオーラを放つ(長い手足も印象的な)若手女優に成長。今後の活躍が期待される。

 一方のヨンナムも、世の中の大多数とは異なる嗜好を持っていたために、容赦なくエリートの座から引きずり降ろされる。ガランとした家の中で一人酒に溺れる様子は心象をよく表現しているが、制服を着ているシーンが必要以上に多いことがキャラクター設定の面でポイントが高い。なぜなら、不遇な私生活の中で唯一拠り所としたものが警察官という立場であったという、頼りにならないものにも縋り付かずにはいられない人間の悲しい性を描出しているからだ。

 ヨンナムにはペ・ドゥナが扮しているが、この韓国屈指の実力派女優の真価は今回は遺憾なく発揮されている(若干イロモノ扱いされたハリウッドでの仕事とは段違いだ)。プレッシャーで押し潰されそうになる様子をスリムな身体を目一杯使って表現する、この渾身の演技には目を見張ってしまう。ソン・セビョクやキム・ジンウ等、脇のキャストも良い。

 監督はこれがデビューとなる若手女流のチョン・ジュリだが、製作担当のイ・チャンドンの薫陶を受けただけあって、正攻法の力強い演出を見せている。ラスト以降で主人公達を待ち受けるものは、果たして希望かそれとも破局か。切ない感慨がずっと後を引く。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 「ヴェラ・ドレイク」 | トップ | 「ヴィタール」 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

映画の感想(わ行)」カテゴリの最新記事