元・副会長のCinema Days

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「フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン」

2024-08-12 06:33:58 | 映画の感想(は行)
 (原題:FLY ME TO THE MOON)巧みな脚本で、感心させられた。史実とフィクションとを絶妙にブレンドさせ、しかも決してシリアスなタッチやネガティヴな方向性に振られることは無く、前向きなコメディに仕上げられていることに舌を巻いた。展開もスムーズで、2時間を超える尺ながら一時たりとも退屈することない。鑑賞して良かったと思える快作だ。

 1969年、アメリカ航空宇宙局(NASA)は人類初の月面着陸を目指すアポロ11号の打ち上げを控えていたが、それまでのアポロ計画は順調に進んでいなかったため、国民の関心はイマイチの状態であった。とはいえ当時のニクソン政権の対ソ連政策もあり、今回のミッションは失敗が許されない。そこで大統領直属のスタッフであるモー・ブルクスは、マーケティングのプロであるケリー・ジョーンズをNASAに雇用させる。さらにモーは計画が失敗した場合の“保険”として、月面着陸のフェイク映像が作成されることをケリーに告げる。一方、NASAの発射責任者コール・デイヴィスは、ケリーのPR担当としてのエゲツない遣り口に反発する。



 基本的に欲得尽くで動くケリーと、堅物の研究者であるコールとは水と油だが、スクリューボール・コメディの常道でこういうカップルは意外と上手くいくものだ。そして黒幕みたいなモーという存在もあり、ドラマの御膳立ては万全である。本物のアポロ計画が試行錯誤を経て進んでいくと同時に、フェイクながら完璧な映像作品を仕上げようとする“裏”のスタッフたちの奮闘も進むという構成は、興味深くもスリリングだ。

 こういうネタでまず思い出されるのがピーター・ハイアムズ監督の「カプリコン・1」(77年)だろう。しかし本作はあの映画のようなシニカルなサスペンス劇ではなく、真っ当な娯楽作になっているところが天晴れだ。グレッグ・バーランティの演出は堅実だが、それ以上にローズ・ギルロイの手によるシナリオが光っている。散りばめられた伏線が終盤で次々に回収されていくプロセスは、まさに映画的な興趣が尽きない。

 主演のスカーレット・ヨハンソンとチャニング・テイタムは絶好調で、演技面でも見た目も申し分ない。モー役のウディ・ハレルソンの胡散臭さも捨てがたいし、ジム・ラッシュにアンナ・ガルシア、ドナルド・エリース・ワトキンズ、ノア・ロビンズ、レイ・ロマノら脇の面子も良い仕事をしている。

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