元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「ヴィタール」

2015-06-19 06:34:50 | 映画の感想(あ行)
 2004年作品。塚本晋也監督作品の中では一番面白くない。“事故で記憶をなくした医学生が、解剖実習により記憶の断片がよみがえることを知り、それにのめりこんで行く”といった、この監督らしい異常なネタを扱いながら、やけに印象は淡白だ。

 医学生の博史は交通事故に遭ったが、かろうじて一命を取り留めた。ところが記憶を無くしていて、両親の顔さえ覚えていない。それでも医学への興味は失っておらず、大学で勉学に励む。解剖実習が始まり、博史が所属するグループには若い女の遺体が割りあてられた。だが、博史は実習を続けているうちに“もう一つの世界”に迷い込んでしまう。そこでは左腕に刺青のある涼子という女とのアバンチュールが展開しているのだった。一方、現実世界では心に傷を負った同級生の郁美が、暗い影を持つ博史に惹かれていく。



 解剖する相手が同じ事故で死んだかつての恋人だったという超御都合主義には目をつぶるとしても、その“失った記憶(らしきもの)”というのがトレンディ・ドラマ並みに脳天気で気恥ずかしいシーンばかりなのには脱力する。つまりは“事故の後遺症で悶々としている今の自分は偽りで、前の恋人と過ごした甘い日々こそが本物”という陳腐で単純な二層構造にドラマを丸投げしているのだ。

 もちろん、筋書きが単純でもそれをカバーするだけの演出上の仕掛けがあれば言うことないが、別に驚くようなシーンもなく、そもそも肝心の解剖場面が(専門家筋では実物に近いという評価らしいが)映像的に全く映えないのだから、あとは推して知るべしである。熊井啓監督の「海と毒薬」などの足元にも及ばない。塚本自身が担当したというカメラワークも何やら薄っぺらで小綺麗なだけ。

 主演の浅野忠信は、まあいつも通りの演技だが、柄本奈美、KIKIといった新人女優陣が弱体の極みだ。10年にもわたって解剖学についてリサーチしたという監督の熱意は認めたいが、ドラマの組み立てがこれでは何もならないだろう。

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