元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「藁にもすがる獣たち」

2021-03-07 06:57:12 | 映画の感想(わ行)
 (英題:BEASTS CLAWING AT STRAWS)これは面白い。屹立したキャラクターの大挙動員と、息をもつかせない展開。そして凝った作劇と、サスペンス映画に必要なポイントがすべて揃っている。まあ、中には無理筋のプロットも無いではないが、それも許してしまうほどにヴォルテージが高い。いつもながら、最近の韓国映画の出来の良さには感服してしまう。

 京畿道平沢市にあるサウナ併設のホテルでアルバイトとして働くジュンマンは、ある日客が引き取りに来なかったロッカーの中から大金が入ったバッグを見つける。もとより上司とソリが合わない彼は、仕事を放り出してバッグを家に持ち帰る。一方、失踪した恋人が残した多額の借金の取り立てに追われる入管職員のテヨンは、仲間と共謀して一攫千金を狙っていた。彼の元恋人のヨンヒはキャバレーの支配人となっていたが、そこのスタッフで夫の暴力に悩んでいるミランを何かと気に掛けていた。曽根圭介の同名小説を韓国で映画化したものだ。



 各エピソードは同時進行で描かれているようでいて、実は時制がバラバラであることはサスペンス映画好きならば察しが付くが、物語がどこに収斂されていくかは、なかなか予想出来ない。ただそれは原作の手柄であり映画の成果ではないという意見もあるかと思うが、スクリーンに観客の目を釘付けにする登場人物たちの“濃さ”とダークな雰囲気には、作り手の大いなる力量を感じずにはいられない。

 出てくる連中がすべて欲の皮を突っ張らせ、周りを出し抜こうとして僅かの見落としにより破滅してゆく。題名通り“藁にもすがりたい”と思っていても、現実は厳しく少しの希望をも踏みつぶす。その有様はまさにスペクタクルだ。脚色も担当したキム・ヨンフン監督の仕事ぶりは天晴れで、一点の淀みもなくパワフルに映画を進めていく。もっとも、同じ町で派手にビジネスを展開しているヨンヒを、テヨンが知らなかったというのは承服出来かねるが、この程度の瑕疵は許せる範囲だ。

 キャストの中ではヨンヒ役のチョン・ドヨンが圧倒的だ。殺しても死なないような毒婦を賑々しく演じきる。テヨンに扮するチョン・ウソン、ジュンマンを演じるペ・ソンウ、共に快調。ユン・ヨジョンにチョン・マンシク、チン・ギョン、シン・ヒョンビンなどの他の面子も気合いが入っている。キム・テソンによる撮影とカン・ネネの音楽も言うこと無しで、これは本年度のアジア映画の収穫だ。

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