元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「メッセンジャー」

2013-03-24 06:36:55 | 映画の感想(ま行)

 (原題:THE MESSENGER )ここ数年の、中東情勢に対するハリウッドのスタンスの変化を垣間見せてくれる一作かもしれない。戦争の悲劇を扱ったこの映画は2009年に作られていて、今回遅れて日本公開されたわけだが、本作の製作から3,4年経った今では「ゼロ・ダーク・サーティ」や「アルゴ」といった“アメリカ当局バンザイ映画”の方が大きく評価されるようになってしまった。もちろん、ほんの数作しか俎上に載せずに断定的なことを言うのはスマートではないが、最近は米国の立場を問題視するような作品をあまり見かけないのは確かである。

 イラク戦争に陸軍兵士として赴いていたウィル軍曹は、負傷のため帰国する。ただし退役まで数ヶ月を残しており、軍上層部はその間に新たな任務を彼に与える。それは、ベテランのトニー大尉と共に、戦死した者の遺族に訃報を伝えるメッセンジャーとしての仕事だ。

 この任務は辛い。本当に辛いのだ。悲しい報せを受け取った遺族は、やりきれない怒りの矛先を、国や軍ではなく目の前のメッセンジャーにぶつけるしかない。二人は来る日も来る日も罵声と怒号に曝され、精神的に参ってゆく。

 ある日ウィルは夫の戦死を伝えた未亡人のオリヴィアと出会う。悲報に接しても気丈に振る舞う彼女に惹かれる彼だが、戦場でのシビアな体験とそのトラウマにより、人並みの色恋沙汰さえ縁遠いものになってしまった。

 彼らのミッションは、考えただけでも身を切られるようだ。でも、誰かがやらなければならない。戦地で死ぬような目に遭い、国に帰ってからも遺族の悲嘆に直面しなければいけない状況など、間違っている。その間違いの元こそ、戦争に他ならない。声高な戦争反対のシュプレヒコールこそないが、この静かな反戦のメッセージは心に染みる。

 オーレン・ムヴァーマンの演出は丁寧で、主人公二人の微妙な立場の違いと互いのスタンスの取り方を、微妙なシークエンスやカットの積み上げによって的確に見せる。演じるベン・フォスターとウディ・ハレルソンのパフォーマンスは万全で、胃の痛くなるような任務に当たるうちに、いつしか自分達の生き方を考え直し、かすかな希望に縋り付くプロセスを切々と表現する。

 そして興味深いのは、メッセンジャーとしての仕事の段取りが紹介されていること。告知は一定時間内に実行せねばならず、告げる相手は親兄弟や配偶者のみ。遺族宅の近くに車を停めてはならず、家に入るときはチャイムを鳴らすのではなくノックすることetc.いずれのルールも合理的なものだが、この“合理性”そのものも理不尽であるのは論を待たない。いくら“ルール”を守ろうとも、死んだ者は帰ってこないのだ。

 未亡人役のサマンサ・モートン、遺族の一人を演じるスティーヴ・ブシェミも妙演。地味だが、見応えのある映画だ。

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