元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「ナポレオン」

2023-12-29 06:36:01 | 映画の感想(な行)
 (原題:NAPOLEON)これは評価出来ない。とにかく何も描けていないのだ。こういう歴史上の超有名人物を取り上げる際は、史実を漫然と追うだけでは到底一本の映画としての枠に収まりきれない。もちろんテレビの大河ドラマか、または数本にわたってシリーズ物として誂えるのならば話は別だ。しかし、そうでなかったら何かしら主題を絞って深掘りするしかないだろう。ところがこの映画は中途半端にイベントを並べるだけで、そこにはドラマ的な興趣が無い。製作意図自体を疑いたくなるような内容だ。

 映画は18世紀末の革命後の混乱に揺れるフランスの様相から始まるが、どうして当時はロベスピエールらによる恐怖政治が台頭したのか、まったく言及されていない。そして、その中で若き軍人ナポレオン・ボナパルトがどのようにしてのし上がり、軍の総司令官にまで任命されたのか、その事情も明かされない。



 彼は夫を亡くした女性ジョゼフィーヌと恋に落ち結婚するが、なぜ浮気癖の直らなかった彼女にゾッコンだったのか、その説明は成されないままだ。そもそも、劇中ではジョゼフィーヌに対する熱い恋心を示す描写さえ見当たらない。

 映画は一応ナポレオンが一度は失脚してエルバ島に流されるものの後に脱出して皇帝に返り咲き、それからいわゆる“百日天下”の終焉と共にセントヘレナ島に送られるという事実を並べてはいるが、ナポレオンが躓いたトラファルガーの海戦はなぜか完全スルー。ロシア遠征の失敗も詳しく描かれず、果てはワーテルローの戦いの敗因も明示されない。

 だいたい、セリフが英語であるというのも噴飯物で、これは作り手が素材を咀嚼していない証左だ。ここで“ハリウッドで作っているのだから仕方が無い”と片付けるわけにはいかない。要するにナポレオンの所業を単なる娯楽大作のネタとしか思っていないのだろう。フランス革命の歴史的な意義を理解していないばかりか、どうして当時フランスが他国から目の敵にされたのかも説明されていない。こんな体たらくで時代劇を撮らないでもらいたい。

 リドリー・スコットの演出は戦闘シーンにこそ物量投入の大きさで見せ場を作るが、人間ドラマはまるで不在。主役のホアキン・フェニックスは終始冴えない表情で、国家的な英雄を演じているという覚悟が見受けられない。ヴァネッサ・カービーにタハール・ラヒム、ルパート・エベレット、ユーセフ・カーコアといった共演陣もパッとせず。救いは上映時間が158分と、そんなに長くないこと。まあ、別途4時間ぐらいの“完全版”も存在するのかもしれないが、昨今は無駄に尺が長い作品が目立つハリウッドの大作映画としては珍しいと言える。

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