元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「あいつ」

2016-08-06 06:28:50 | 映画の感想(あ行)
 91年、キティ・フィルム=サントリー=NHKエンタープライズ提携作品。この頃はまだバブルの余韻が残り、観念的な作風の映画(有り体に言えば、独りよがりのシャシン)にカネを出す余裕が産業界にはあったのだろう。とはいえ、いくら製作に漕ぎ着けようがスノビズムはスノビズムでしかなく、観客無視の珍作の域を出ない。現在では、企画段階で早々に潰されてしまうようなネタである。

 主人公である男子高校生の光は、東京が水没することを願っているおかしな思想の持ち主だ。そんな彼は、幼なじみの貞人からイジメの標的にされていた。ある日、光は“ノストラダムスの大予言が大好きだ”と口走るヘンな少女・雪と、彼女の祖父である忠と出会う。

 忠には予知能力があるらしく、光に“明日ケガするぞ”と言う。翌日、予言通りに光は貞人に殴られてケガをするが、なぜかそれ以来、光の身体に念動力みたいなパワーが宿る。一方で貞人の行動にも異常が出始め、あろうことか雪を誘拐してしまう。おびき寄せられた光は貞人から水責めにされるが、そこで光の超能力が発動。貞人との全面的なバトルに突入する。

 落ちこぼれたような連中を並べて、これまた浮き世離れしたような(どうでもいい)エピソードが漫然と続くだけの映画だ。作者はおそらくドロップアウトした人間が集まって共同体を作ること自体に何か意味があると思っていたのだろうが、残念ながらそういう“お膳立て”だけではナンセンスで、その共同体がカタギの世界に向けて何かアクションを起こすことから(原則として)ドラマが始まるのである。宇宙人がどうのサイキック・パワーがどうのという与太話が延々と続いた後、ラストで思い出したように現実世界のモチーフを挿入しても、時すでに遅しだ。

 監督はNHKの若手ディレクターであった木村淳(脚本も彼と藤田一朗によるオリジナル)。テレビドラマでちょっと変わったテイストを披露したら思いがけず評価され、映画にも進出してきたようなのだが、この体たらくでは失敗に終わったと言っても良いだろう。今では彼の名前を知る者もあまりいないと思われる。光役に岡本健一、雪に石田ひかり、貞人に浅野忠信が扮している。他に岸部一徳やフランキー堺も顔を揃え、キャストは結構豪華。しかし内容がこの程度では“ご苦労さん”としか言えない。

 なお、私はこの映画を今は無きシネマアルゴ新宿で観ている。この映画館を立ち上げたのは、当時の気鋭の6人のプロデューサーが設立した“アルゴ・プロジェクト”だが、やっぱり今から考えるとバブルの徒花であったのかもしれない。理念はどうあれ、興行的実績が伴わないムーヴメントは、退場するしかなかったのである。

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