元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「ポンヌフの恋人」

2017-11-05 06:25:10 | 映画の感想(は行)
 (原題:LES AMANTS DU PONT-NEUF )91年フランス作品。驚くような映像に出会える。たとえば、大道芸人である主人公のアレックスが火を噴く場面。それに呼応するように挿入される、ヒロインのミシェルの顔が描かれた無数の街頭ポスターが炎上するシーン。そしてクライマックスの、パリの夜空に目がくらむほどの花火が炸裂し、その下でセーヌ川を疾走する水上スキーが浮かび上がる有名な場面。さらにそのバックには、デイヴィッド・ボウイやイギー・ポップをはじめシュトラウス、マーラーまで、幅広いジャンルの音楽が響き渡る

 しかし、豪勢なエクステリアとは裏腹に、映画自体の質はあまり褒められたものではない。天涯孤独のホームレスの青年と、失恋した挙げ句に治る見込みのない眼病に罹患し、絶望して街をさまよう画学生とのラブストーリーというのは、どう考えても無理筋の設定だ。加えて、レオス・カラックス監督が得意とする気取ったクサいセリフの洪水と、粘り着くような描写が行きすぎて死ぬほどのろくなったドラマ運び。画面は華やかだが、睡魔に襲われるのに始まって20分も掛からないのである(苦笑)。



 実はカラックスがこの前に撮った「汚れた血」(86年)も、監督の独り善がりの思い入れが先行したシャシンだが、そんなテイストを払拭するような切迫したパッションとスピード感が全編を覆い、観る者を瞠目させたものだ。対して、本作は巨費を投じたというパリの街並みのセットが“しょせん書き割り”であるのと同様、中身が安っぽい。

 アレックスとミシェルをはじめ、感情移入出来るキャラクターは一人も登場せず、すべてが監督の個人的趣味で押し切られている。そこには観客の立場なんか微塵も考慮されていない。そしてあのラスト。まるで取って付けたようなシロモノで、脱力するしかない。主演のドニ・ラヴァンとジュリエット・ビノシュは熱演だが、頑張れば頑張るほど、作劇の甘さが強調されるのは皮肉である。

 カラックスはこの後もロクな仕事をしておらず、要するに「汚れた血」だけの一発屋だったとの印象を受ける。ただし、作品のクォリティは斯くの如しながら、封切り当時には話題になりロングラン公開された。私はこの映画を封切り時には渋谷の満員のミニシアターで観たが、いかにも(今で言う)“意識高い系”みたいな雰囲気の客が目立っていたことを思い出す。
コメント
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