元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「ヒア・マイ・ソング」

2017-11-03 06:37:47 | 映画の感想(は行)
 (原題:HEAR MY SONG)91年イギリス作品。ピーター・チェルソムはベテランの域に入る監督だが、近作はあまりパッとしない。だが、彼も初期にはこんなチャーミングな映画を撮っていたのだ。コメディと音楽映画、そしてロードムービーを良い案配でブレンドし、当時は若手ながら実に作劇のツボを押さえている。

 リバプールの小さなミュージック・ホールを経営するミッキーは、往年の名オペラ歌手ジョン・ロックの復活コンサートを企画する。ところが万事がいい加減な彼は、うっかりロックのニセ者を舞台に上げてしまう。当然のことながら大顰蹙を買い、ホールは閉館。ついでにミッキーは恋人までも失ってしまう。本物のロックは税金逃れのため30年間の逃亡生活を送っていることを聞きつけた彼は、ロックを探すため俳優エージェントをしている親友フィンタンと共にロックの故郷であるアイルランドに向かう。



 舞台がむさ苦しいホールから、美しいアイルランドの自然へと移るコントラストとタイミングが見事だ。ミッキーとフィンタンとの道中は典型的なバディ・ムービーの形式だが、かなりイイ味出している。マーティン・ブレスト監督の「ミッドナイト・ラン」(88年)を彷彿とさせる。

 ミッキーは何とかロックを説得してリバプールに連れて行くが、それからの展開は予定調和のハッピー・エンドと思わせて、ストーリーに捻りを利かせ、観客を引き込んでいく。ロックによるステージングは素晴らしい盛り上がりを見せ、それに続くアッと驚くラストは観ているこちらの表情も緩んでしまう。

 ロックを演じるネッド・ビーティはアメリカ人だが、どう見ても生粋のアイリッシュだ。ミッキーに扮するエイドリアン・ダンバーとフィンタン役のジェームズ・ネスビット、そしてシャーリー・アン・フィールドとタラ・フィッツジェラルドの女優陣も良い。そしてロックを追う刑事をデイヴィッド・マッカラムが演じているのだから嬉しくなる。スー・ギブソンのカメラによるアイルランドの風景、特に海辺の古城の神秘的な美しさには舌を巻いた。ジョン・アルトマンの音楽も効果的。
コメント
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