元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「戦場の小さな天使たち」

2017-11-26 06:33:59 | 映画の感想(さ行)

 (原題:Hope and Glory)87年イギリス作品(日本公開は88年)。面白い。戦争の実相を悲惨さから捉えた作品は数多いが、ここでは別の切り口により、戦争と庶民の関係性の一断面を見せてくれる。間違いなく、ジョン・ブアマン監督の代表作の一つだ。

 1939年、第二次大戦が勃発。イギリスも当事国となり、世相は逼迫する。ロンドンに住む小学生ビルの父親も出征し、母のグレースはビルと妹のスーを疎開させようとする。だが、直前になって子供たちは田舎に行くのを嫌がり、仕方なく母親は兄妹を手許に置くことにする。やがてドイツ軍の爆撃によって町は炎上。ところがビル達にとってその焼跡は恰好の遊び場になった。また、ビルの姉のドーンとカナダ兵のブルースも焼跡で大っぴらに落ち合うようになる。

 ある日、一家がピクニックに行っている間に、家が爆撃で破壊されてしまい、やむを得ず田舎の祖父の家に引越すが、そこでもビル達は釣りやハイキングなどでカントリー・ライフを満喫。ドイツ軍による空襲も一段落して学校に戻らなければならない日がやってくるが、町に帰ってきたビル達の前に“衝撃の(笑撃の?)”事実が突きつけられる。

 本作と似た映画を挙げるとすれば、ズバリ片渕須直監督の「この世界の片隅に」(2016年)だろう。戦場では命のやり取りが日々発生し、銃後の市民にも危険が及ぶ時制ではあっても、庶民の暮らしは厳然として存在している。そこには悲劇ばかりではなく、喜びも笑いもある。戦争は“ただそこにある事実”として捉えられるだけだ。

 もっとも、敗戦国と戦勝国とでは事情が異なり、「この世界の片隅に」が主人公達が味わう艱難辛苦をも挿入されるのに対し、この映画はどこか楽天的だ。しかし、そのことをもって“だから本作は戦争の悲惨さを伝えていない”と断ずるのも早計と言うべきだろう。

 ビル達が戦争を乗り切られたのは、単なる幸運に過ぎなかったのだ。父親やドーンの恋人は戦死していたかもしれないし、一歩間違えば爆撃で家族全員がいなくなってしまうこともあり得る。その紙一重の僥倖を、庶民として楽しむしかないではないか。それが人間としての逞しさではないか。その有り様をポジティヴにうたいあげる本作のスタンスには、本当に共感できる。

 ブアマンの演出は弛緩したところが無く、しっかりとドラマを綴っていく。子役が達者なのはもちろんだが、サラ・マイルズやデイヴィッド・ヘイマン、サミ・デイヴィスといった大人の役者は良い仕事をしている。

 なお、この映画は第2回東京国際映画祭で上映され、その時は原題をアレンジした「希望と栄光の日々」というタイトルが付いていた。対して封切り用のこの邦題はいただけない。いくら原題のままでは意味がよく通じないとはいえ、もっと工夫する余地があったと思う。
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