元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「殺意の夏」

2017-11-19 06:59:51 | 映画の感想(さ行)

 (原題:L'Ete Meurtrier )83年フランス作品。主演女優のイザベル・アジャーニの魅力を堪能するための映画である。思えば、出世作「アデルの恋の物語」(75年)以来、アジャーニはコンスタントに映画に出ていたにも関わらず出演作の日本での公開は覚束ない状態だった。封切当時においては、少なくなかった彼女のファンは、彼女の主演作を久々に観ることが出来て溜飲を下げたことだろう。

 フランス南部の田舎町に、エルという若い女が両親と共に引っ越してくる。何かと言動が目立つ彼女を、地元の消防士であるパンポンは気に入って交際を申し込む。するとエルは直ちに荷物をまとめてパンポンの家へと移り住み、わがもの顔で振る舞うのだった。ある日、彼女はパンポンの家の納屋で古びた自動ピアノを見かけて驚く。実は、エルはこの町に“ある目的”を持ってやって来たのだ。

 そしてその自動ピアノこそが、彼女の出生に関する忌まわしい出来事の当事者を特定する証拠なのだ。エルは周到に“復讐”の計画を練り、パンポンとの結婚後に“実行”に移そうとするが、思いがけない事実を父親から聞かされてショックを受ける。作家セバスチャン・ジャプリゾが自身の小説を自ら脚色。「タヒチの男」(67年)等のジャン・ベッケルが監督を務めた。

 およそワン・シークエンスごとに衣装を替え、その蠱惑的な表情としなやかな肢体を強く印象付けるアジャーニのパフォーマンスは素晴らしい。しかも、挑発的な身のこなしと同時に、メンタル面での危うさを存分に表現するあたり、まさに彼女の独擅場である。

 サスペンス映画としてのプロットの組み立ては少々無理筋なのだが、画面の真ん中に陣取ってドラマを引っかき回す彼女の振る舞いを見ていると“まあ、これで良いじゃないか”という気分になってくる(笑)。

 ただ、脇のキャラクターの配置は巧みだ。一本気なパンポンはその純粋さ故に事件に巻き込まれ、足が悪くて椅子に座ったきりのエルの父親は曰わくありげだ。エルと意気投合するパンポンの伯母や、エルに気がある同性愛者の女教師デューなど、すべてキャラが濃い。もちろん、いかにも悪そうな連中が抜け目なく周囲に配備されている。

 ベッケルの演出はソツがなく、ラストまで緩みを見せない。アラン・スーションやシュザンヌ・フロン、ジェニー・クレーヴといった他の出演者も達者だ。エティエンヌ・ベッケル&ジャック・ドローのカメラがとらえた陽光がまぶしい南仏の風景、ジョルジュ・ドルリューの音楽も万全だ。
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