元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「遙かなる走路」

2017-11-10 06:30:45 | 映画の感想(は行)
 80年松竹作品。トヨタ自動車の創業者の伝記映画で、戦前に彼が自動車を作りだすまでの軌跡を追う。木本正次の著書「夜明けへの挑戦」の映画化だ。とても真面目に作られているが、堅苦しさはない。現在の自動車業界の現状をチェックする意味でも、存在価値のある映画である。

 1933年、豊田自動織機製作所の常務であった豊田喜一郎は、欧米に出張した際に“これからは自動車産業が大きく発展する”と確信し、社内に自動車製作部門を設立。37年にトヨタ自動車工業株式会社として独立させ、41年には社長に就任した。しかしその足取りは決して順調ではなく、外国車を解体しては組み立てる作業が続くが、なかなかオリジナルの製品として結実しない。費用も底をつき、工場建設をめぐって妹の婿である利三郎と対立。窮地に追い込まれる。



 どの分野でも先駆者には苦労は付き物だが、本作の主人公は父親の代の家業との兼ね合いや複雑な家庭環境などもあり、一筋縄ではいかない展開を見せる。だが、脚本担当の新藤兼人はそれらの本務以外の事柄を描くことを“寄り道”扱いせず、メインストーリーを盛り上げるモチーフとして機能させているのが天晴れだ。

 しかも後半にはすべてネタが“回収”され、豊田一号車の完成と共に盛り上がりを見せる。原作の功績もあるだろうが、この堅牢なプロットは評価されて良い。しかしながら、日本が戦争に突入しようとする中、普通乗用車ではなく軍用トラックの生産に重点を置かざるを得なかったのは、主人公達も(表面的には受注増で喜んでいるが)不本意だったと思わせる。

 さて、業務上で徹底して顧客本位の“改善”に取り組む姿勢は、現在にもこの会社に受け継がれている。財閥の一部で当初から先進技術の吸収と開発に邁進した日産とは、元から違うと感じる。マーケティング重視のスタンスこそが、ここまで会社を大きくした要因なのだろう(ただし、個人的には今のトヨタ車を購入しようとは思わないが ^^;)。

 佐藤純彌のソツのない演出。主演の市川染五郎(現:松本幸四郎)をはじめ、米倉斉加年、田村高廣、司葉子、三橋達也、地井武男、丹波哲郎、神山繁、中野良子、白都真理など、キャストはかなり豪華。音楽をミッキー吉野及びゴダイゴが担当しているのも面白い。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする