元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「女神の見えざる手」

2017-11-18 06:32:10 | 映画の感想(ま行)

 (原題:MISS SLOANE )面白い映画だ。骨太の演出は最後まで揺るがない。主人公の造型はもとより、題材はタイムリーで、社会の欺瞞を追求するジャーナリスティックなテイストも満載。観る価値は大いにある。

 主人公のエリザベス・スローンは、依頼主の利益のため政治家に働きかけて議会での立法活動に影響を与え、さらにマスコミ工作や世論操作もおこなうロビイストだ。実力は折り紙付きで、ワシントンでもその名は轟いている。彼女が属する大手法人が今回引き受けた仕事は、銃擁護派団体からの依頼により議会で審議中の銃規制法案を葬り去ることだった。

 道義的にそのオファーに承知できない彼女は、数人の仲間と共に退社。銃規制派を支援する小さなロビー会社に移る。当然のことながら元の会社は攻勢を仕掛けてくるが、エリザベスも手段を選ばない。法律の抜け穴も同僚のプライバシーも、利用出来ると思えば行使することをいとわない。だが、彼女の過去の所業が明らかになるに及び、思いがけず窮地に立たされてしまう。

 彼の国には、日本では考えられない職務を行う法人が存在する。「ニューオーリンズ・トライアル」(2003年)で取り上げられた“陪審コンサルタント”なんかその最たるものだが、本作で扱われるロビー会社もその一つだろう。全米にはロビイストは約3万人もいるらしく、顧客の利権のために日々エゲツない稼業に励んでいるとか(笑)。ともあれ、この題材を取り上げただけでも注目度は高くなる(まあ、日本においては官公庁こそが最大のロビイストと言えなくも無い ^^;)。

 しかも、ジェシカ・チャステインが扮するヒロイン像が出色だ。見かけは非情なキャリアウーマンだが、銃規制に賛成の姿勢を崩さないあたり、内に正義感を秘めている。また、孤独で異性関係には及び腰。男娼を買って疑似恋愛を体験するのが精一杯というのも泣かせる。チャステインとしても代表作の一つになるだろう。

 元弁護士のジョナサン・ペレラによる脚本と、ジョン・マッデンの演出による作劇には緩みが無く、観る者をグイグイと引き込んでゆく。終盤近くにはドンデン返しが用意され、興趣は尽きない。マーク・ストロングやググ・バサ=ロー、ジョン・リスゴー、サム・ウォーターストンといった脇の面子も良好だ。

 それにしても、銃器の有用性を女性層にアピールさせようという銃擁護派団体の存在、また悪者を射殺した元軍人がヒーローになってしまう現実を見れば、アメリカは実に“野蛮な国”であるとの認識を新たにする。
コメント (1)
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