元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「WOOD JOB!(ウッジョブ) 神去なあなあ日常」

2014-05-25 06:41:03 | 映画の感想(英数)

 本作で妙に印象に残っているのは、主人公が両親と暮らしている家が安アパートの狭い一室であることだった。高校を卒業する息子がいる家族の住処としては、あまりにも質素だ。この父と母には(その言動から想像出来るように)甲斐性が無いのだろう。もしも一戸建てか少しは上等なマンションに家族が住めるような状況ならば、果たして主人公が林業なんかに興味を持ったのかどうか、すこぶる怪しい(笑)。

 ともあれ、矢口史靖監督が得意とする“ウンチク詰め込みムービー”(?)としては楽しめる。今回初めてオリジナル脚本ではなく、三浦しをんによる原作を脚色したというあたりも、この監督のフレキシビリティが増したことを示している。

 大学受験に失敗して進路が決まらない勇気は、何気なく目にした林業研修プログラムの案内チラシに、この業界の関係者と思われる美人の写真が載っていたことに大いに興味を覚え、何の予備知識もないままこの研修に参加する。期間は一年で、一ヶ月のオリエンテーションを経て、各業者の見習い社員として三重県の山奥で過ごすのだ。現地は都会っ子の勇気の想像をはるかに超えた僻地で、おまけに彼を待ち受けていたのは人間というよりも野獣と形容したくなるような先輩のヨキであった。

 ヘタレな若造が周囲の叱咤激励によって何とか一人前への道を歩き出すという、青春スポ根ドラマの王道を軸に、一般にはほとんど馴染みが無いと思われる林業という仕事のディテールを網羅し、終盤にはスペクタクル的な見せ場も用意しているという、文句の付けようのない体裁を取ったシャシンだ。

 散りばめられたギャグの水準も決して低くはなく、各キャラクターは十分に“立って”いる。もっとも、子供が山中で遭難したシークエンスにおけるオカルティックなモチーフや、ラスト近くの“祭”における主人公の行動の段取り、物見遊山で訪れる大学サークルの扱いなど、スマートではない作劇も目に付くところではあるのだが、作品の“勢い”の前では些細な瑕疵であると思う。

 主役の染谷将太はさすがに上手く、主人公の成長ぶりを遺憾なく出している。今回“海猿”から“山猿”に転向したヨキ役の伊藤英明は、直情径行型のマッチョマンを巧みに演じて好印象。光石研や柄本明、優香、西田尚美、マキタスポーツといった脇の面々も良い。

 ただし、ヒロイン役の長澤まさみはダメだ。誰でも出来る役であり、それ以前に彼女の演技力がデビュー当時からまったくアップしていないことに脱力してしまう。思い切ったイメチェンでも図らないと、先は長くないと思わせる。

 それにしても、冒頭にも書いたが中年になっても貧しい借家暮らしに甘んじている主人公の両親には、思わずシンミリとさせられる。ワーキングプアの連鎖を断ち切るには、林業への挑戦みたいな“大英断”が必要だということか。世相を反映している点も評価出来よう。
コメント
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