元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「アイリス」

2014-05-09 06:14:30 | 映画の感想(あ行)
 (原題:Iris)2001年イギリス作品。99年にアルツハイマー症で世を去った女流作家アイリス・マードックと夫ジョン・ベイリーが最後に過ごした数年間を彼等の若い日々を織り交ぜながら描く。監督は英国演劇界の重鎮リチャード・エアで、夫ジョンを演じたジム・ブロードベントは本作でアカデミー助演男優賞を獲得。ヒロイン役のジュディ・デンチと若い頃のアイリスを演じたケイト・ウィンスレットもオスカー候補になっている。

 とにかく、J・デンチとJ・ブロードベントの演技に圧倒される。アルツハイマー症で物忘れが激しくなり、やがて人格さえ崩壊してゆくヒロイン。しかもそれは作家としてのアイデンティティを喪失するという悲劇を意味する。そんな彼女に戸惑いながらも献身的な愛情を注ぐ夫のジョンの姿には胸を打たれる。



 しかしこの映画の優れた点は、それと平行して、彼等が出会って一緒になるまでの若い頃の姿を同等に展開させていることだ。怖い物知らずに生き生きと若さを謳歌する二人と、病気により無慈悲に引き離される老境の彼等が同じ一組のカップルだという現実。ただし愛情は少しも衰えず、一方が意識を喪失する寸前に互いの思いが真の高みに達する感動的な一瞬さえも映し出す。リチャード・エア監督の人間に対する洞察の深さとポジティヴな視線には感じ入るばかりである。

 青春時代の二人を演ずるK・ウィンスレットとヒュー・ボナヴィルの演技も素晴らしい。ロジャー・プラットのカメラとジェームズ・ホーナーの音楽、そしてジョシュア・ベルのヴァイオリン演奏が美しさの限りだ。上映時間を1時間半にまとめた脚本の緻密さにも注目したい。
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