元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「二十才の微熱」

2014-05-03 06:57:49 | 映画の感想(は行)
 93年作品。一見フツーの大学生、実は夜には男娼のアルバイトをしている19歳の主人公(袴田吉彦)を中心に様々な人間模様が描かれる。監督は“ぴあフィルム・フェスティバル”でグランプリを受賞し、これが劇場映画デビューとなる橋口亮輔。

 「ハッシュ!」や「ぐるりのこと。」で、今や日本映画界に無くてはならない人材になった橋口監督だが、この劇場用映画第一作はかなりぎこちない。確かに丁寧に撮られている。無謀とも思えるワンシーン・ワンカットの連続もそれほど破綻は見せない。



 主役の袴田をはじめ、“恋人”の高校生を演じる遠藤雅、そのガールフレンドに扮する山田純世、主人公に想いを寄せる先輩役の片岡礼子など、キャストも好演。透明感あふれる映像をバックに、何とも煮えきらない、それでいて投げやりでもない、曖昧な青春の“気分”をとらえようとする、その姿勢はいいのだ。しかし・・・・。

 この映画の欠点は観ていてちっとも楽しくないところである。橋口監督がそれ以前に手掛けていた自主映画ならそれでいいだろう。映画マニア相手の限定公開だったら許せる。でも、金取って一般公開する以上、そこには娯楽性が必要になる。少なくともここには観客を楽しませようという姿勢はどこにも見られない。単なる技巧の羅列、自分一人が面白ければそれでいい、内輪だけでウケればいいという、きわめて“同人誌的”な発想しか見えない。

 たとえば、主人公が先輩の家に荷物運びの手伝いに行くと、父親はかつて一夜を共にした中年男だった、というコメディ的シチュエーションがあるが、そこで画面は弾むどころか極端な長回しでその設定を殺してしまう。第一、台詞の聞き取りにくさといったら腹の立つほどで、ヘタすればストーリーが追えなくなる。

 私が本作を公開当時に映画館で観たとき、客席にゲイのカップルがかなり目についた(笑)。こういう“客層”を相手にしているかのごとく、ベクトルが内側に向いた作りは気になったものだが、それからこの監督は精進してメキメキと力を付けていったのだから、まさに“男子三日会わざれば刮目して見よ”を地で行く感じだ。
コメント
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