元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「アクト・オブ・キリング」

2014-05-04 06:29:33 | 映画の感想(あ行)
 (原題:The Act of Killing)ドキュメンタリー映画の体を成していない、ワザとらしい作品だ。個人的にはまったく評価出来ない。こんなのが各映画賞を取ってしまうのだから、暗澹とした気持ちになる。

 1965年9月30日の軍事クーデターに端を発したインドネシアの政変において、百万人規模の大虐殺が行われたという。手を下したのは後に国家元首となるスハルトに率いられた民兵組織だと言われる。アメリカの映像作家ジョシュア・オッペンハイマーは当初人権団体の依頼でこの虐殺の被害者を取材していたが、当局側から横槍が入り被害者への接触を禁止される。そこで対象を加害者に変更したのだが、彼らの口から出るのは過去の行為の“武勇伝”ばかり。



 そこで作者は掟破りの方法を提案する。加害者の所業を自分たちで映画にして、カメラの前で演じてみろというのだ。すると彼らはまるで映画スター気取りで、嬉々としてその“作品”の製作に取り掛かる。

 要するに、作者が面白いネタを見つけられなかったから、取材対象の側に内容を丸投げして何とか帳尻を合わせようとしたのだ。もちろん、こっちはこんな安易な図式を信じてしまうほど御目出度くはない。

 映画の製作を持ちかけたのがネタならば、それに乗ってしまう元・加害者の連中の所業もネタだ。果ては、この映画製作騒動を通じて加害者たちの心境が変化していくという筋書きも展開されるが、これもネタであることは論を待たない。当然のことながら、本当に元・加害者の連中が“改心”の兆しを示したのかもしれない・・・・という可能性はゼロではない。しかし、元々の設定からネタを仕込みまくったことがミエミエの作劇では、映画自体が徹頭徹尾“ヤラセ”だと思われても仕方がない。



 こんな茶番劇よりも、劇中で紹介されるパンチャシラ青年団の存在が強く印象に残る。この団体は現在のインドネシアに存在する民兵で、構成員は300万人にも達するという。国を裏社会の側から支え、閣僚ですら頭が上がらないらしい。取材すべきは、元・加害者のジイサン達の猿芝居よりも、現在進行形のこの異常な事態の方ではなかったのか。それが出来ないというのならば、ドキュメンタリーなんか撮るのは辞めておけと言いたい。

 斯様に作者の姿勢はヘタレそのものであるが、映像は不必要に凝っている。冒頭の巨大なオブジェと民族舞踊のコラボから始まり、大団円の滝壺での大仰なレビュー(?)に至るまで、何かの冗談かと思えるような出し物が続く。これはたぶん製作総指揮のヴェルナー・ヘルツォークの趣味だろうが、まったくもって見苦しい限りだ。正直言って、観る価値があるとは言い難い。
コメント
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