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元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「ロボジー」

2012-01-22 07:12:56 | 映画の感想(ら行)

 矢口史靖監督にしては“薄味”な映画作りだ。たとえば「スウィングガールズ」や「ハッピーフライト」のように、題材に対する深遠なリサーチが独特の凄みを醸し出して観客を圧倒させることはない。ならば面白くないのかというと、そうではないのだ。適当に肩の力が抜けたような、温めの湯加減で寛いでいる感じの心地よさが全編に漂っている。こういうアプローチも悪くない。

 弱小家電メーカー“木村電器”の研究職社員の3人組は、自分勝手な社長の気まぐれな命令により、間もなく開催されるロボット博でデモするための二足歩行のロボットを開発していた。しかし、本番直前に試作機がバラバラになる。困った3人は、窮余の策としてロボットの中に人間を入れることを思い付く。

 ヒマを持て余していた痩せ型の老人・鈴木重光をスカウトしてロボットの筐体の中に入れて博覧会に出場したところ、現場での思わぬ“大活躍”により、そのロボット“ニュー潮風”は一躍人気者になってしまう。ロボット博だけの出番だったはずが次々と仕事が舞い込み、くだんの3人組は引くに引けない立場に追い込まれる。さらにこの“ニュー潮風”に惚れ込んだロボット好きの女子大生がまとわり付くようになり、事態は混迷の度を増すばかり。果たしてどんな結末が待っているのか。

 よく考えると、この設定には随分と無理がある。そもそもこれは企業の隠蔽工作であり、話の出発時点からしてウサン臭い。いくら昨今のロボット技術が進んでいるといっても、あまりに臨機応変に動きすぎる“ニュー潮風”に対して最初から大きな疑念が巻き起こらないのもおかしい(マスコミや市民が“実は人間ではないか”と思い始めるのは終盤になってからだ)。

 イベントの途中で勝手に抜け出して娘の家族に会いに行くというくだりなんか、いくら何でも無茶だろう。斯様にユルユルの設定なので、秘密がバレるかバレないかのサスペンスはとても弱い。しかし、ある意味この脱力感が良いのだ。観客に必要以上のプレッシャーを与えない、昔のプログラム・ピクチュアを観ているような気楽さがある。

 さらにストーリーを“老人の生き甲斐探し”に収斂させるあたり、高年齢層を狙ったマーケティングも期待出来よう。矢口監督としても、毎回入念な題材の作り込みを実行するのはキツいので、このレベルの作品をコンスタントにリリースすることによって作家活動をスムーズに進める上でのプラスにもなると考えられる。

 とはいえ、日本全国の有名ロボットが集結する場面や、ロボット工学のウンチクを披露するあたりは、決してネタの掘り下げに手を抜いていないことを示している。ギャグの振り方も万全だ。

 主演の五十嵐信次郎(ミッキー・カーティス)は好演で、スティクスの大ヒット曲「Mr.ROBOT」をカバーしているのも嬉しい。ヒロイン役の吉高由里子はノンシャランな魅力を発揮。コメディエンヌとしての実績を積み上げている。矢口監督は彼女をはじめ綾瀬はるかや上野樹里、西田尚美といった天然系の女優が大好きのようだ。北九州市を中心としたロケ地の風景も効果的で、観て損のない佳作といえよう。
コメント
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