(原題:Restless)透明感あふれる端正な青春映画である。ほとんどの登場人物に“死”がまとわり付いているにもかかわらず、印象に残るのは生きることの尊さと明日への希望だ。ガス・ヴァン・サント監督によるマイナー指向の作品の中では一番納得出来る作品である。
舞台はオレゴン州の小さな町。両親を交通事故で失い、今は叔母と2人で暮らす少年イーノックは、高校をドロップアウトして時折路上に死体のように横たわったり、見知らぬ人の葬式に参加したりと、無意味な日々を送っている。ある日彼は葬祭場で係員に見咎められて補導されそうになるが、列席していたアナベルという少女の機転で救われる。
彼はどこか浮き世離れした彼女と親しくなるが、実は彼女はガンで余命幾ばくもない。イーノックも交通事故の際に臨死体験をしており、それから日本軍の特攻隊員の幽霊ヒロシが“友人”として彼の周りに現れるようになる。イーノックは死ぬ間際まで行ったにもかかわらず、死ぬことを理解していない。そんな彼に生きることを教えるのは、もうすぐこの世から去ってしまう少女と、半世紀以上も前に理不尽な死を受け入れたかつての兵士である。
人間はいつか死んでしまうからこそ、生きることの輝きがあるのだ。イーノックとアナベルの、長くは続かない(だからこそ貴重な)関係を丁寧にトレースしていく演出が素晴らしい。
二人が一緒に歩くと、田舎町の何気ない冬の情景が透徹した美しさを伴う空間に早変わりするかのような、映像の切り取り方には感服する。まるで雰囲気はヨーロッパ映画で、超ショートカットのアナベルは、あたかも「勝手にしやがれ」のジーン・セバーグのようだ。そして、ヒロシが軍服姿ではない出で立ちでイーノックの前に現れる終盤のシーンは、感動が盛り上がる。
イーノックに扮するヘンリー・ホッパーは偉大な父デニスの面影があるナイーヴな逸材。アナベル役のミア・ワシコウスカは「キッズ・オールライト」の時とはまた違った硬質な魅力を漂わせる。
そしてヒロシを演じるのは加瀬亮だが、彼の好演に加えて国に殉じた兵士としてのキャラクターの練り上げには感心した。特に最後の出撃の際には国ではなく恋人に想いを捧げたあたりは泣かせる。アメリカ映画で描かれた日本人像としては、違和感のない好例として記憶されるべきだろう。ダニー・エルフマンによるオリジナル音楽とビートルズやニコ等の既成曲も効果的で、観る者に切ない感慨をもたらす良作だ。