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元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「タレンタイム」

2012-01-25 06:27:13 | 映画の感想(た行)

 (原題:Talentime )マレーシアの女流監督ヤスミン・アフマドが2008年に撮った映画で、私は今回、福岡市総合図書館映像ホール「シネラ」での特集上映で接することが出来た。同監督の作品を目にするのは初めてで、本国では実力派として知られていたことを証明するかのような、実に見応えのある青春映画である。

 小さな町の高校で、生徒の音楽の才能を競い合うイベント“タレンタイム”が開かれることになり、一次オーディションの結果7人の出場者が選ばれる。その中で映画で描かれるのはピアノの弾き語りが得意な女生徒のメルーと、ギター片手に自作の歌を披露するハフィズだ。メルーは、バイクで送り迎えをしてくれるインド系男子生徒のマヘシュと恋に落ちる。

 ところがマヘシュは聴覚障害者。しかも彼の母親は民族や宗教が異なるからと、メルーとの交際を認めない。マヘシュの家庭も複雑で、父親はおらず母親と姉との3人暮らし。母親の弟は一家のことを何かと気に掛けてくれるが、この叔父は自分の結婚式の直前にトラブルに巻き込まれ、命を落としてしまう。

 ハフィズにも父親はおらず、難病で余命幾ばくも無い母親の看病に明け暮れる毎日だ。それでも彼は音楽活動や勉学に手を抜かず、成績はトップクラスである。それを妬む中国系の同級生は二胡の名手で、彼もまたタレンタイムの出場が決まっているものの、ハフィズに対して妨害工作を仕掛けようとする。

 7人のうち3人しか紹介されていないのは不満とも言えるが、主要キャラクターの描き方の密度が濃いので観ている間はそれも気にならない。多民族国家マレーシアは、文化や宗教が異なる人々が共生して行かざるを得ない社会を形成している。当然のことながら確執は大きく、時として取り返しの付かない事態に発展することもある。特に、マヘシュの叔父の辛い過去の体験は胸に突き刺さる。

 しかし、それでも彼らは前に進まなければならないのだ。何とか理解し合い、どうにかして妥協点を見つけようとする登場人物達の苦悩と努力は、そのままグローバル社会を生きる我々の姿に投影される。そして、他者と出会って成長する登場人物達の姿は、まさに青春ドラマの王道を行くような頼もしさがある。演じるキャストも皆達者だ。

 そして感心したのは劇中で歌われる楽曲だ。この映画のために作られたナンバーらしいが、どれも素晴らしい出来映えである。なお、この監督は本作を撮り上げてから間もなく50歳代の若さで急逝した。世界に通用する手腕を持った作家だと思うのだが、実に残念だ。機会があれば他の作品も観てみたい。
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