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元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「怪談」

2007-08-26 07:53:26 | 映画の感想(か行)

 三遊亭圓朝の代表作「真景累が淵」の(たぶん)4回目の映画化。何やらピンと来ない作品だ。そもそも話の辻褄が合っていない。

 冒頭、一龍斎貞水による講壇で物語の前段となる高利貸しの宗悦が債務者である侍の新佐衛門に取り立てに行ったところ逆ギレした相手に斬り殺されてしまうこと、そして後に新佐衛門は乱心して妻を斬った挙げ句に自殺してしまうくだりが語られる。時が経って、宗悦の娘と新佐衛門の息子が互いの生い立ちを知らずに恋仲になることで惨劇の幕が上がるのだが、困ったことに宗悦の受難のエピソードがその後の展開にまったく絡まない。

 当初は原作がそうなっているからだと思ったのだが、過去3回の映像化作品(いずれも未見だが ^^;)の粗筋を読んでみると、どれもちゃんと宗悦と新佐衛門の関係がストーリーのバックグラウンドとして機能しており、ならば今回は脚色のミスであると言うしかない。これでは、暗い因縁を持つ男女がその業から逃れられずに堕ちてゆくという骨太の物語性は希薄になり、単に深情けの年増女に捕まった若い男の不条理的な苦労話でしかなくなってしまう。

 監督は中田秀夫だが、おそらく彼はヒロインを「リング」の貞子のような災厄を無差別テロのように振りまく怨霊として捉えているのだろう。宗悦と新佐衛門との怨恨話には直接関係のない登場人物たちが主人公と関わったというだけで次々と死んでゆくあたりも、それで説明がつく・・・・ように見えるが、それならそうで、ヒロインをもっと常軌を逸した存在として練り上げる必要があったのではないか。そのへんがまるで不発。結局、序盤の講壇仕立ても取って付けたようで、ラストもそれで締めていないのも、むべなるかな・・・・である。もちろん、往年の怪談映画のような様式美もどこにもない。デビュー当初は瞠目させられた中田監督のホラー演出も今では完全にヴォルテージが落ち、ゾッとさせるシーンなど皆無。呆れるほどの平板な展開に終始している。

 それでも主演の2人は頑張っていて、黒木瞳の熱演はひとまず評価はしたいし、そして特筆すべきはこれが映画初出演となる尾上菊之助だ。粋な着流しとエロい目つきは危険なオーラを発しつつ、見当違いの純情ぶりで破滅に向かってひた走る自暴自棄な若者像をうまく表現している。本作は彼一人で支えられていると言ってもいいだろう。

 なお、川井憲次の音楽は秀逸。しかし、エンディングに流れる浜崎あゆみの下卑た曲ですべてぶち壊し。いくら利害関係があるとはいえ、プロデューサーは少しは映画の雰囲気ってものを考慮すべきではないのか。
コメント
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