元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「フリーダム・ライターズ」

2007-08-02 06:50:07 | 映画の感想(は行)

 (原題:FREEDOM WRITERS )ロスアンジェルス郊外の“問題校”に赴任してきた女教師(ヒラリー・スワンク)が生徒達の心を開くまでを描いた実録映画だが、私が最も共感したのは彼女の頑張りではなく、やる気マンマンの彼女に対して引け目を感じている夫(パトリック・デンプシー)の方である。

 妻は夫の“建築士になりたい”という結婚当時の希望を忘れたことはなく、今でこそ彼は建築関係とは縁のないらしい会社に勤めているが、いずれは建築士の資格を取ってステップアップしてくれるものと信じている。対して夫は自分にそんな能力はないことを自覚し始めており、今の職場もそこそこ悪くないこともあって、チャレンジよりも安定を選びつつある。ところが妻は夫の心情を推し量ることはなく、ただ“アタシは頑張っているんだから、アナタも頑張って!”と言うばかり。

 しかも彼女は“互いに頑張るのがアタリマエ”といった御題目を、生徒指導等で帰宅が遅くなり、家事がおろそかになることの“言い訳”にしている。もちろん、夫婦間での価値観のズレはあっていい・・・・というか、あるのが当然だ。大事なのは、価値観の相違を認めた上で、それらと折り合いを付けることである。なのに彼女は最初から自分と夫との価値観は“似たようなものだ”と決めつけ、自分の見解を一方的に押しつけるだけ。これでは、劇中の夫ならずとも逃げ出したくなる。こういう末期的な夫婦関係をシビアに描出したことが、本作の唯一の見所であろう。

 では、それ以外の“熱血教師奮闘編”である映画のメインストーリーはどうかといえば、ハッキリ言ってどうでもいい。凡庸そのものだ。確かに生徒達が置かれた環境は劣悪。あまりの悲惨さに泣けてくる。しかし、彼らに対する主人公の態度がどうにもリベラル臭いのだ。

 日記を付けさせるとかゲームをするとか何とか、そういう奇をてらったことではなく、落ちこぼれであろう彼らがどうして正規のカリキュラムに向き合うようになったのか、描くべきはそのプロセスの筈だ。これでは教師と生徒の気色の悪い馴れ合いではないか。それに終盤の展開が示すように、生徒達はこの教師がいなければ何も出来ない“カタにはめられた”ようなキャラクターと化してしまう。実際はそんなわけがないし、またヒロインは国語教師に過ぎないから四六時中彼らと一緒にいることは出来ない。単に“実話だから”という設定に寄りかかって、作者のリベラルな主張を全面展開したようにも思える。そんな教条的なテイストなどお呼びではない。

 監督のリチャード・ラグラヴェネーズは脚本家出身であるにもかかわらず、詰めが甘いシナリオに漫然と乗っかっているだけの退屈な演出に終始している。それにしてもH・スワンクは「リーピング」もそうだが、どこか勘違いしているような役が板に付いてきたように思える(爆)。
コメント
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