元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「父と暮せば」

2007-08-08 06:45:08 | 映画の感想(た行)

 2004年作品。季節柄・・・・というわけでもないが、原爆をテーマにした井上ひさしの戯曲を映画化作品を取り上げてみた。戦後3年経った広島で焼け跡の家に一人暮らしをする女主人公と、原爆で死んだ父親の幽霊とのやり取りが延々と続く。

 途中にヒロインが思いを寄せる青年(浅野忠信)がちょっと出てくるものの、基本的には登場人物は二人だけだ。あまりにも舞台劇を意識した展開に面食らうが、最初は娘の“恋の応援団”として出てきた筈の父親が、次第に原爆の悲劇を体現した主人公の“内面の具現化”として機能し、葛藤がギリギリにまで深まってゆくという作劇においては、このような限定された映像空間は有効であろう。そして物語自体が火曜日から金曜日までのわずか四日間の出来事を追っていることもドラマの密度を上げることに貢献している。

 死んでしまった者への悲しみと生き残ってしまった者の苦悩、それが主人公を取り巻くミクロな状況を超越して、あの時代を生きた日本人の普遍的な真実(そして未来)へと、わずかながらの希望を伴って広がり昇華していくようなラストシーンは圧巻だ。黒木和雄の演出は「美しい夏キリシマ」に続いて目を見張る求心力を発揮している。主演の宮沢りえ(白いブラウスが印象的)と原田芳雄の演技も素晴らしい。
コメント
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