元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「シラノ・ド・ベルジュラック」

2007-08-10 06:54:58 | 映画の感想(さ行)

 (原題:Cyrano de Bergerac)90年作品。エドモン・ロスタンによる有名な戯曲をジャン=ポール・ラプノーが演出。主演はジェラール・ドパルデュー。17世紀フランスを舞台に、文武に秀でていながらデカすぎる鼻のため深刻なコンプレックスを持った軍人シラノ・ド・ベルジュラックの生涯を描く。

 「フランスの忠臣蔵」ともいえるほどポピュラーな物語である「シラノ」の正攻法の映像化ということもあって、ドパルデューの演技は力がこもっている。特に冒頭、悪徳貴族の御用役者とその劇場との破壊者として、あの巨体がさっそうと過激に登場するところなど見事なもので、アカデミー主演男優賞にノミネートされたのも十分納得できる熱演である。

 しかし、映画自体は絶賛するほどの出来かといえば、残念ながらそうはいかない。同じように古典を映画化したケネス・ブラナーの「ヘンリー五世」と比べると、少々物足りない。それは、ブラナー版が誰にでも知られた原作を(しかも、ローレンス・オリビエによる傑作がありながら)あえていま映画化した理由が、そこに大きな今日性を持たせることにあったのに対し、この「シラノ」はあくまでも原作そのままのウェルメイドな映像化だけに専念している点だ。

 主人公シラノは確かに並の人間ではない。だが、恋がたきのためにラブレターの代筆やデートの替え玉まで引き受け、挙げ句の果ては不幸な最期を迎えねばならないヒーロー像が、いま現在どれほどの共感を得られるのだろうか。さらに、その悲劇の理由が少しばかり大きい鼻、たったそれだけとは。(少なくとも私には)全く納得できない話である。そのへんをもっと突っ込まなければ。さらに悪いことにロクサーヌ役の女優(アンヌ・ブロシェ)があまり魅力的でなく、シラノを悩ませる恋の対象としては役不足である。

 カメラや美術は実に優秀で、力のこもった作品には違いないのだが、いまいちこちらに迫ってくるものが感じられなかった。舞台を現代に置き換えてハッピーエンドにしたスティーブ・マーチン主演の「愛しのロクサーヌ」の方が好ましく思われる。
コメント
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