元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「あおげば尊し」

2006-06-27 06:45:53 | 映画の感想(あ行)

 末期ガンを患う父親を、生徒達に命と死の厳粛さを見せるための“教材”にしようとする小学校教師の苦悩を描く市川準監督作品(原作は重松清)。

 同監督は「病院で死ぬということ」で似たような題材を取り上げているが、文字通り病院で生を全うせざるを得ない、たぶん我々の多くがそうなるであろう普遍性を持つネタに比べて、在宅での死(比較的レアケース)を描く本作は、伊丹十三の「大病人」という派手な先行作品があるだけに分が悪いと言える。

 ここでは主人公が教師で、父親も元教師という設定により、教育問題をからめて新味を出そうとしているものの、どうもしっくり来ない。だいたい、子供達に死期の近い人間の姿を見せることによって何か“効果があるはずだ”と考えること自体が安易ではないか。事実、多くの生徒達がネガティヴな反応しか示さず、主人公は落胆するのだが、これは作者のエクスキューズにしか見えない。

 しかも、インターネットで死体の写真を見たり斎場に忍び込んで遺体を眺めたりするのが好きな一人の生徒について、終盤にその“背景”が取って付けたように示されるのは鼻白むしかない。そんな甘い認識で人間の“心の闇”を語ってもらっては困るのだ。

 ここは奇をてらわずに、厳格で生徒のウケも良くなかった父親と、かつての教え子との関係を地道に追った方が観客へのアピール度が高かったのではないか(しかも、ああいう結末を迎えるのなら、なおのこと)。

 ただし、これが初主演となるテリー伊藤は意外なほどの好演で、映画が“語るに落ちる”レベルにシフトダウンすることをギリギリのところで防いでいるのは評価したい。特に生徒にロンパリの目を指摘されて理由を隠さず説明するシーンは印象的。妻役の薬師丸ひろ子がアイドル時代の残り香を見せているあたりもよろしい(笑)。

 それにしても、最近は卒業式で「あおげば尊し」はあまり歌われないらしいが、これは“我が師の恩”より“生徒個々人の思い出”の方を優先させようという風潮だろうか。寂しいことだ。
コメント (2)
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