元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「真昼の暗黒」

2006-06-21 06:48:38 | 映画の感想(ま行)
 今井正監督による昭和31年作品。実在の冤罪事件を描いて当時の映画賞を総ナメにした“社会派映画の傑作”とされているシャシンだが、現時点で観ると何か釈然としないものを感じる。

 だいたい、あれだけ明確な無罪立証が成されているのに、いくら戦後の混乱期の余韻があるとはいえ、簡単に裁判所が有罪判決を出すはずがないではないか。“実話だからしょうがない”といっても、実際には弁護側の論告を拒絶するだけの当局側の圧力なり策謀があったはずで、そのへんを詳細に描かないと説得力はない。もしも現在、この映画と同様のプロットで法廷劇が製作されても「失敗作」との烙印を押されるだけだろう。

 ではなぜこの作品が当時高い評価を受けたのか。それはつまり、その頃は“裁判所も警察もまったく信用ならないものだ”というコンセンサスが確立していたからではないかと思う。いわばアナキズム的な左傾思想。映画ジャーナリズムも能動的な映画ファンもこのスタンスにかぶれていたからに違いない。

 だから“なぜ信用ならないか”ということは映画でわざわざ描かなくても自明の理であり、裁かれる側の人物背景だけを描けば事足れりというような評価の仕方をされたのであろう。その時点での最先端のトレンドを掴んでも、時が過ぎれば古い方法論にしか見えない。映画というのは難しいものである。

 今井監督の演出はとりたてて才気走ったところは見当たらないが、後年の「戦争と青春」などとは段違いの骨太さを見せていることは認める。草薙幸二郎や左幸子らキャストの頑張りも印象的。伊福部昭の音楽も良い。
コメント
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