「朝日新聞」の書評欄で、佐々木俊尚氏が「陰謀史観」と批判し、その後、「一部誤認があった」として朝日新聞自身によって書評の一部が削除されるという事件もあった昨年話題となった本。昨秋に図書館で予約してやっと廻ってきました。
戦後の日本外交を動かしてきた最大の原動力が、「米国から加えられる圧力と、それに対する「自主」路線と「追随」路線のせめぎ合い」(p iv)と捉え、戦後日本の政治・外交を叙述します。
確かに、論拠を疑いたくなる箇所もないわけではないですが、一読に値する歴史書です。日本の政治・外交が、米国の外交戦略に大きく影響を受けていることは、誰もが感じる事だと思うのですが、本書はそれを具体的に明示して、戦後日本史をダイナミックに描きます。証言集や回顧録、2次史料を中心とした歴史的事実や仮説の記述は、1次史料重視の学者さんにはなかなか書けないものでしょう。
私として興味を持った箇所としては、記述は多くありませんが、昭和天皇が戦後の日米関係に大きく関与していたこと、米国のエージェントとの印象が強い岸首相の再評価、ニクソン大統領と佐藤首相の密約とそれを果たせなかった佐藤首相への報復などです。より多次元的に歴史を観るヒントを貰いました。
米国が世界戦略の中で日本を利用することを考え行動するという、国際政治では当たり前であろうことが、実際にどのように行われてきたのか。それに対して時の日本の指導者はどう考え、どう対応しようとしたか?自らがその立場だったら何が出来るのか?単なる理想論ではなく、多数のステークホルダーが複雑に入り組んだ現実の中で、自らのビジョン、政策をどう実現していくのか?政治・外交の難しさを窺い知るのに十分な内容です。「政治の本質は動機で無くて結果」という岸の証言は大きく首肯できるものです。
叙述も非常に分かりやすく読みやすい本書ですが、深読みすべき一冊です。