咲とその夫

 定年退職後、「咲」と共に第二の人生を謳歌しながら、趣味のグラウンド・ゴルフに没頭。
 週末にちょこっと競馬も。
 

小説「忍びの国」・・・

2012-07-10 22:13:44 | レビュー
 先日、羽田空港のいつもの書店にて買い求めた和田竜著作「忍びの国」という小説。同小説が単行本として発刊された際に新聞の広告欄に出ており、一度読んでみるかな・・・と、興味をそそられたこともあり、今回偶然にこの題名に出会ったので即座に購入。

 帰りの空港の出発ロビーや機内でも、この小説のページを懸命にめくっていた・・・当方が尊敬して止まない池波小説の筆致と違っており、いささか読みづらい面もあったが、満足まんぞく。

 時は戦国・・まさに戦国時代真っ只中を舞台に描かれている。“天下布武”の朱印を用いて天下統一を目前にしていた織田信長、その次男・信雄(のぶかつ)が養子となっていた北畠家の当主・北畠具教(義父)の暗殺に家来3人(長野左京亮、日置大膳、柘植三郎左衛門)を連れて出向くところから物語がはじまる。後段に解説の故・児玉清さんによると西部劇風の導入とあるが、その通りである。

 北畠具教(きたばたけとものり)は織田信長の伊勢攻めにより軍門に下り、織田信雄を養子にせざるを得なかった。そして、北畠家に仕えていた長野左京亮(ながのさきょうのすけ)と日置大膳(へきたいぜん)の二人は、現主人である信雄の命により、旧主人北畠具教を斬らねばならない。しかし、あの塚原卜伝が開祖の新当流の奥義をただ一人極めた北畠具教であるから、なかなかの使い手である。

 死闘の末、具教は深手を負って命運も尽きようとしているが、大膳はとどめを刺すことができない。そこで、元・伊賀忍びの柘植三郎左衛門(つげさぶろうざえもん)は、伊賀忍びの使う棒手裏剣でとどめを刺すが・・・あっさりしたものである。
 武士である左京亮も大膳もこの仕様をみて、「背後から旧主を襲うなど、忍びづれの血は争えんの」と三郎左衛門を軽蔑する。

 ところで、この3人の家来の言動は、主人を主人と思わないぞんざいな物言いをしており、読んでいる当方にとっては、いささか違和感を持ちながら読み進めた。

 例えば、このような場面。窮地にある左京亮を救うように信雄が大膳に命令するのであるが・・・。

 「大膳、左京亮を救わぬか」

 大膳が動かないので語気を強めて、再びいうのである・・・が。

 「元の主(あるじ)など斬れるか」信雄に向かって怒鳴り上げた。

 と、返答するなど、このような物言いがあちらこちらに出てくる。また、伊賀の国の地侍である百地三太夫が、下人と会話する場面でもその下人たちがぞんざいな言い方をしている・・・。

 池波小説にドップリの当方、このようなぞんざいな物言いの言動にはいささか戸惑いながらも・・・割り切って読み終えた。伊賀忍び軍団を壊滅させると4万4千余の軍勢で攻めた織田信長の「天正伊賀の乱」、それに至るまでの次男・信雄が伊賀を攻める戦いが中心に描かれている。

 その父・信長の命に背いた信雄は、伊賀攻めで大敗を期す結果となる。それは百地三太夫率いる伊賀忍び軍団の謀略によるものであり、そして主人公の忍び「無門」の縦横無尽の大活躍には、娯楽性たっぷりの筆致で・・・面白いこと請け合い。

 伊賀忍び軍団の戦闘部隊である下人たちは、それを率いる地侍の百地三太夫をはじめとする十二家評定衆によって差配されているが、平素はお互いが敵同士であり、銭である褒美のためにのみ働くとのこと。

 そのため、伊賀の国が破壊されても下人の大半は、信雄軍がやって来る前に伊賀の国を見捨てて逃亡を企てる場面が描かれている。ところが、敵の首を獲ることでそれぞれ報奨金がつくとのことになり、舞い戻って信雄軍と戦うとの件(くだり)はなかなか面白く、下人たちが銭で動くことがこの小説の基本線となっている。
 そして、前述したように地侍に対する下人たちの言葉づかいはぞんざいである・・・最後まで。

 エンターテイメントとしてみると面白い小説であるが、個性豊かな登場人物のそれぞれについてもっと突っ込んで描かれていると良かった。また、池波小説のように「人の生き死に」についても心に残るような描き方がほしかった・・・と、思えた。

 ただ、主人公の無門とは別に石川五右衛門の若かりし頃が、描かれており興味は尽きない。(夫)

[追 記]~解説より~
 時は戦国。忍びの無門は伊賀一の腕を誇るも無類の怠け者。女房のお国に稼ぎのなさを咎められ、百文の褒美目当てに他家の伊賀者を殺める。このとき、伊賀攻略を狙う織田信雄軍と百地三太夫率いる伊賀忍び軍団との、壮絶な戦の火蓋が切って落とされた──。破天荒な人物、スリリングな謀略、迫力の戦闘。「天正伊賀の乱」を背景に、全く新しい歴史小説の到来を宣言した圧倒的快作。



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