木山捷平の詩

2012-09-10 | 日記

たまたま木山捷平 ( 1904-1968 ) の詩を読んでいたら、その言葉使いも方言的で面白いが、独立している詩篇を勝手に連結して見ると、これは一つの叙事詩 「 女の一生 」 のように思えるのである。

① 「 蝶蝶 」 は10代の夢見る頃、② 「 白いシヤツ 」 は人を愛すること、③ 「 たうもろこしのひげ 」  は結婚、④ 「 おしのの腰巻 」 は生活のために一生懸命働いた時代、⑤ 「 六十年 」 は気づいたら … 誰も居ないのであった。それでは、ホントに勝手ながら具体的に詩をつないでみようか …。

①  麦畑の中で憩 ( やす ) んでゐたら お咲は つい ねむたくなつてねてしまうた。

   とろとろしてゐると 何を思うてか お腹の上に 黄色い蝶蝶がとまりに来た。

   蝶蝶もとろとろと ― お咲は なんだか むずむずと 昨夜 ( ゆうべ ) のことを思ひ出して  

   ゐるのであつた

② 旅でよごれた私のシヤツを 朝早く あのひとは洗つてくれた あのひとの家の軒につるした。 

   山から朝日がさして来て 「 何かうれしい。」 あの人は一言さう言つた。

③ 秋になると たうもろこしの実にかはいいひげが生えた。

   あのひげのうひうひしさ。

     僕はとみちやんと もろこし畑の中で よくそのひげを股にぶら下げてあそんだ。

   歳月はめぐつた。

   とみちやんは はづかしそうに、十八の春 汽車にのつて町へ嫁入りして行つた。

   そして とみちやんのゐない村のもろこし畑に 今日も秋風が吹き出した。   

④  おしのの腰巻嗅いで見たら おしのの腰巻くさかった。おしのの腰巻何故くさい?田の草とっ

   て 田の草とって汗でよごれた。汗でよごれりや 腰巻だってくさくなら! 糞ツ! くさい腰巻

   竹の棒につけて えつさ えつさ 東京の真中駆けちやろか。 「サア コラ ミンナ コノ コシ

   マキ ニ 敬礼ダ! 」   

⑤ 尋ねて来たのに主人は不在である。 主婦も不在である。 開けひろげた新緑の縁側に 

     茶碗が二つ置いてある 座蒲団も二つ置いてある。

                                                  ( 1988年小学館刊 『 昭和文学全集 第14巻 』 より 引用 )