風雅遁走!(ふうがとんそう)

引っ越し版!フーガは遁走曲と訳される。いったい何処へ逃げると言うのか? また、風雅は詩歌の道のことであるという。

「赤トンボ」は「唐辛子」だった?

2007-07-04 11:50:02 | コラムなこむら返し
 このタイミングでないともう書かないだろうから、今のうちに書いておこう。いや、唐辛子にからむエピソードなんだが(笑)、これはもうひとつの歌謡史にもかかわるかもしれない。案外知られていない事なのだ。
 このエピソードは、少なくとも、昨日の記事でふれた『トウガラシの文化誌』には書いてあったから、案外、海外では有名な話なのかも知れない。
 「あのねのね」というフォークデュオのグループがいた。その歌詞は駄ジャレであって、むしろコミック・ソングのジャンルであった。それでも、結構人気を得て清水ナントカという片割れはタレントになり、最近ではアウトドアの指導者みたいな活動をして時々TVに出ているようだ。
 そのフォークデュオ「あのねのね」の出世作が「赤トンボ」であった。

 赤トンボ 赤トンボ 羽を取ったら 柿の種
 柿の種 柿の種 羽をつけたら 赤トンボ

 とか言う、たわいもない歌詞とメロディなのだが、これが結構受けてヒットした。人間なにがどうなるか分かったもんじゃないのである(笑)。だから、皆も気落ちせずに頑張りたまえ!

 で、ここからが、本題なのだが、このコミカルな歌詞は実は、俳聖松尾芭蕉のパクリなのである! エェッ~~! と驚かれただろうか?
 このエピソードは『トウガラシの文化誌』(アマール・ナージ/晶文社/1999)の197ページに出てくる話で、また、きっとこの本を主な出典とした『トウガラシのちいさな旅』(越川芳明/白水社/2006)にも触れられてある(107ページ)。
 『芭蕉俳句集』(岩波文庫/中村俊定・校注)には唐辛子に関する句は4句ある。

 青くてもあるべきものを唐辛子

 隠さぬぞ宿は菜汁に唐辛子

 草の戸を知れや穂蓼に唐辛子

 唐辛子思ひこなさじ物の種

 芭蕉の弟子の其角がつくった「あかとんぼ はねをとったら とうがらし」という句を、師芭蕉みずから「とうがらし はねをつけたら あかとんぼ」と訂正したというエピソードが残っている。その時、芭蕉は言ったというのである。「それじゃ、俳句とはいえん。おまえはトンボを殺してしまっている」。ハアッ? ま、そのとおりだが……。羽をもぐ訳ですからね。
 芭蕉もユーモラスな人物だったとみえる。で、このエピソードを著作で引用したアマール・ナージはインドのベンガル州生まれ、現在NYに住みウォール・ストリート・ジャーナルの気鋭の記者だということだ。そのアマールは粋なコメントをつけている。
 「トンボは秋を告げる先触れである。そして、羽のないトンボであるトウガラシも、同じように秋を告げるものなのだ。」

 いや、違うじゃないか、「あのねのね」のは「柿の種」だったよ??とおっしゃるのでしょうか? それでも、パクリではないと言うのは強弁というものでしょう。「柿の種」より、「唐辛子」のほうが色も鮮やかで、季節感もあり見事です。

 それにそれぞれの句の成立事情を知ってみると、実に深いのです。最初の句「青くてもあるべきものを唐辛子」は、「俳諧深川」に出てくる句で、門弟のひとり酒堂が、俳諧修行のすすまぬ悩みをかかえて芭蕉庵を訪ねてきた際、4人で詠んだ四吟歌仙の句だというのです。弟子の青さを赤くなる唐辛子にたとえたという句なのです。
 ふたつめの「隠さぬぞ宿は菜汁に唐辛子」に至っては、「笈の小文」の旅で現在の豊橋にあった門弟の加藤烏巣(うそう)宅に宿をとった時、出された質素な食事(菜汁に唐辛子を入れたもの)に弟子の隠し事のない質素な暮らしぶりに感心し、共感して出来た句だというのですから……。

 ついでに書いておくと、「金八先生」が当たり役になって、すっかり俳優になった感がある武田鉄矢さんのフォークグループ「海援隊」時代のうた。「思えば遠くへ来たもんだ」(タイトルもそうだったと思いましたが、ともかく歌い出しのフレーズです)は、中原中也です。中原中也の「頑是ない歌」の最初のフレーズのパクリと言えるでしょう。

 思へば遠く来たもんだ
 十二の冬のあの夕べ
 港の空に鳴り響いた
 汽笛の湯気は今いづこ

 武田さんの歌詞も、「あのねのね」の「赤トンボ」の歌詞もJASRAC((社)日本音楽著作権協会)で著作権が守られていると思いますが、妙な話ではないでしょうか?
(あ、この後段は著作権に関しての挑発ではありませんので、念のため。)


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4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
面白くてタメになるね。このままエツセイにパクられ... (たける)
2007-07-04 19:55:53
面白くてタメになるね。このままエツセイにパクられそう(笑)!
辛い料理が好きなら、たとえば、アジアならタイ料... (フーゲツのJUN)
2007-07-05 01:15:17
辛い料理が好きなら、たとえば、アジアならタイ料理、インド料理でもいいが、そうそうお隣のコリアの伝統料理にもたっぷりの唐辛子が使われるよね。
唐辛子っておそらく深い。味わいもそうだけど、唐辛子の深さが、話題(テーマ)の発汗作用をうながすのかも(笑)!
ありゃ、私は♪羽を取ったらトンガラシ と憶えていま... (敦)
2007-07-10 05:45:12
ありゃ、私は♪羽を取ったらトンガラシ と憶えていました(汗)。こういう歌は伝わるごとに別バージョンが自然発生するのかもしれませんね(笑)。
あ、敦さん。 (フーゲツのJUN)
2007-07-10 13:59:18
あ、敦さん。
トンガラシも唐辛子も同んなじじゃないすか?
ね!

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