京都で、着物暮らし 

京の街には着物姿が増えています。実に奥が深く、教えられることがいっぱい。着物とその周辺について綴ります。

KIMURAの読書ノート『はじまりの24時間書店』

2021年05月17日 | KIMURAの読書ノート

『はじまりの24時間書店』
ロビン・スローン 作 島村浩子 訳 東京創元社 2021年1月
 
大学図書館の職員であるペナンブラは上司から『テクニ・タイキオン』という本を入手することを任務として受ける。この本は「予言の書」であったらしく、過去にも図書館職員がこの本について調査したものの、1657年までしか追跡できなかった。ペナンブラが調査を始めたところ、1861年の段階でサンフランシスコの「ウィリアム・グレイ」という本屋に保管されているという文章を発見する。そこで、ペナンブラはその書店へ向かう。サンフランシスコではそのような書店を見つけることができなかったものの、一風風変わりな書店が目に留まり、ペナンブラはそこへ足を踏み入れる。そこで、「ウィリアム・グレイ」という書店が書店ではないことを知ることになる。
 
この物語は1969年のサンフランシスコ。当時出版されていた実在の書籍のタイトルがたくさん出てくることも特徴となっている。しかも親切なことにそのタイトルの直後に注釈で説明書きがあり、注釈を探すために別ページを開いたり、そのページの端に視線を移動させることがなくそのような意味でストレスフリーな構成となっている。
 
しかしながら、やはりこの物語の醍醐味は『テクニ・タイキオン』がどこにあり、かつ「ウィリアム・グレイ」が一体何なのかというところであろう。そして、もちろん、『テクニ・タイキオン』を見つけ出すには「ウィリアム・グレイ」をまずは探さなければならない。この「ウィリアム・グレイ」が何なのかということが明らかになった時、まず日本の読者の場合、そこにアメリカの小さな(学校の教科書には決して掲載されない)しかし、大事な史実というのを知ることなる。そして、アメリカの大胆さというのも感じ取ることができるのではないだろうか。
 
ペナンブラが「ウィリアム・グレイ」の存在を知ったところから、物語はミステリーから冒険小説に変わっていくところも魅力的である。なぜなら、舞台は都会のサンフランシスコ。その都会で彼が「冒険」するのである。無事に「ウィリアム・グレイ」にたどり着けるのか。ここには当時のアメリカの縄張り争いのようなものが描かれており、古今東西縄張り争いというのはどこにでもあるのだなぁとしみじみと感じたのである。しかしそれがあるからこその冒険譚が楽しく描かれるということにもなる。
 
この物語はわずか133ページという短いものであるが、とにかく興味惹かれる要素が盛りだくさんである。そもそもタイトルの「24時間書店」。この書店も実は一癖ある書店である。そして、ペナンブラだけでなく、客人もかなり変わった人たちばかりが描かれている。私自身、惹かれたのはペナンブラの大学の時の友人である。なぜなら、1969年の時点で彼はコンピューターを操っているのである。もちろん、そこからこの物語の謎を解くカギのサポートをすることにもなるのだが、この時代にパソコンが普通に登場するアメリカって……。日本がアメリカに対抗しようなんてやはり無理な話なんだと、この物語からも知ることになったのである。そして、何よりも『テクニ・タイキオン』は400年以上前の本である。つまり稀覯本を扱った作品ということで、本好きにはたまらなく浪漫を感じるのではないだろうか。
 本作品は全米図書館協会アレックス賞受賞、全国大学ビブリオバトル2014のチャンプ本の『ペナンブラ氏の24時間書店』(2014.4.20)の前日譚という位置づけである。興味のある方は、ぜひこちらもいかがだろうか。ちなみに、私はこちらの作品は未読であったが本作品を十分楽しめることができた。

=======文責 木村綾子

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